◇前工程の瞬低、大きな損害招く/2系統受電で多重の対策

 2010年12月8日、三重県・岐阜県を中心に瞬時電圧低下事故が発生し、NAND型フラッシュメモリーを中心に製造している東芝(現・キオクシア)四日市工場ではクリーンルームの空調が止まり、生産が一時中断するなど、多くの産業用需要家に影響が生じた。産業用需要家のうち、特に半導体産業は高い供給信頼度が求められる。台湾では電力需給逼迫や停電が相次いでおり、台湾当局や台湾電力は半導体工場向けに新たな対策を講じている。

 10年に発生した東芝四日市工場の被害総額は100億円とも200億円とも言われており、多額の被害が生じた。瞬低によって空調が止まり、生産が停止。再稼働に半日を要し、全面回復には数週間から半年を要したと言われている。

 半導体工場、とりわけ前工程の半導体工場で瞬低が生じると、製造装置の停止や生産工程にあった製品が不良品となり廃棄せざるを得なくなるなど、様々な損害が生じる。半導体工場では、UPS(無停電電源装置)や瞬時電圧低下補償装置を導入しているが、10年の瞬低事故では東芝が用意した瞬時電圧低下補償装置の能力を超えた電圧低下が生じたことで、生産停止に繋がったと見られている。

 22年7月5日に熊本市で発生した落雷では、瞬低事故が発生しルネサスエレクトロニクス川尻工場の生産設備のうち9割が停止した。同社は直ちに生産設備の再稼働を図ったものの、瞬低前の生産能力に回復したのは6日後の7月11日であった。また、事故発生時に生産中であった仕掛品は一部廃棄となった。


 ◇台湾でも停電頻発

 半導体産業が集中する台湾でも類似事例が存在する。22年3月1日に半導体工場が多く立地する新竹科學園區で瞬時電圧低下が発生、力晶半導体P1/P2は生産設備が停止する被害を受けた。TSMC(台湾積体電路製造有限公司)・UMC(聯華電子股份有限公司)などの半導体工場は事前に導入されていたUPSが作動し、経営への影響が生じる事態には発展しなかった。

 台湾では20年以降、全国規模の大規模停電が3回も発生している(21年5月13日、5月17日、22年3月3日)。度重なる台湾の大規模停電や需給ひっ迫事案は、大規模集中電源・系統構成に頼る台湾の電力供給体制の課題を浮き彫りにした。台湾は南北に長く、西側に需要が偏っており、基幹系統はループ化されていない。そのため大型電源や基幹系統のトリップは、直ちに全国的な需給バランス悪化・停電に繋がる。台湾電力は22年3月3日の大規模停電(303停電事故)を経て、大型電源(洋上風力や石炭・ガス火力)から科學園區に直接送電する送電系統を整備することで、科學園區のレジリエンスを高める施策を打ち出している。

 ◇国策として対応を

 日本国内でも、キオクシア四日市工場、キオクシア岩手北上工場、マイクロン広島工場、JASM熊本工場など、前工程の大型工場は2カ所の変電所から電力を受電できるような系統構成となっている。また、マイクロン広島工場はさらに大型の自家発電設備を備えている。他方、キオクシア岩手北上工場開設に合わせて東北電力は東花巻変電所、27万5千V東花巻支線、15万4千V北上東線を整備しており、特定負担となった可能性がある。EUV露光装置は1台300億円とも呼ばれ、半導体工場の新設は数千億円~兆円単位の投資が必要になるため、軽視されがちであるが、当然ながら半導体事業者のコスト競争力に多少になりとも影響する。半導体産業は国策の側面が大きくなっており、第3回で記した通り、送配電事業者と半導体事業者、行政の対話と戦略的な立地選定が肝要であると考える。(この項おわり)

電気新聞2024年5月13日