コンパクトさを訴求するオクロのSMR「オーロラ」

調達契約、技術投資…北米で相次ぐ「接近」

 北米を中心にIT産業と原子力産業が接近する動きが相次ぐ。サプライヤーに納入部品の製造過程で温室効果ガス(GHG)排出削減を求めるなど脱炭素に熱心な業界だが、これまで取り組みは再生可能エネルギーに偏っていた。ただ、大量の電力を消費するAI(人工知能)の急速な発達で、データセンター向けの安定電源の確保はより切実な課題に浮上する。加えて脱炭素の実効性を高めるため、実質排出ゼロを担保する仕組みによりリアルタイム性を求める動きが顕在化。これも原子力への追い風となりつつある。

 米マイクロソフト(MS)の創設者、ビル・ゲイツ氏は貧困撲滅の手段として低廉・安定な電気を大量供給できる原子力技術に着目。ナトリウム冷却高速炉を手掛けるスタートアップ、米テラパワーに出資していることはよく知られる。

 ゲイツ氏は経営から退いているが、MS自体も原子力に親和的だ。昨年6月には米原子力発電大手コンステレーション(旧エクセロン)から電力と環境価値を調達し、データセンターへ供給する契約を結んだ。さらに今年1月には、原子力業界での経験を持つ2氏を幹部に迎え入れ、データセンターへの電力供給に小型モジュール炉(SMR)を活用する検討を本格化した。それぞれ、高温ガス炉ベースのSMR開発を手掛けるウルトラ・セーフティー・ニュークリア(USNC)、電力大手・テネシー川流域開発公社(TVA)から転じた女性技術者だ。

 ◇製鉄大手と組み

 MSは3月にグーグルとともに、電炉製鉄大手の米ニューコアに対し原子力を含むクリーン電力の共同調達へ向けた取り組みを開始すると発表した。電炉とデータセンターはいずれも脱炭素へ向け電力需要が高まると予想される分野。異なる需要曲線を合成することで効率的に電力を調達し、供給側にとっても安定収益を得られる仕組みを構築する狙いだ。

 ゲイツ氏同様、個人的に原子力に肩入れする経営者が、革新的な生成AI「GPT」を手掛けるオープンAIのサム・アルトマンCEOだ。この5月に個人出資の投資会社と、高速炉ベースのSMR「オーロラ」を開発する米オクロが合併。新会社の会長に就いた。プラント運営から電力販売までを手掛ける垂直統合ビジネスを志向しており、データセンターはその主要顧客だと位置付ける。

 アマゾンウェブサービス(AWS)は3月に6億5千万ドル(約1千億円)で、発電事業者の米タレン・エナジーからペンシルベニア州のサスケハナ原子力発電所(BWR×2基、各133万キロワット)に隣接するデータセンターを取得した。原子力から直結で電力を調達して、脱炭素の運用を図ると現地メディアは伝える。

 重電大手でありサーバーソリューションも強みとするフランスのシュナイダーエレクトリックは4月、溶融塩炉「IMSR」開発に取り組むカナダのテレストリアル・エナジーと覚書を締結。デジタル制御システムの開発とともに、データセンター向け専用電源などとして展開を共同で進める。

 こうした動きの背景には電算需要を満たす脱炭素電力を再エネだけで経済的に調達できるか不透明なことがある。国際エネルギー機関(IEA)が1月公表した報告書「エレクトリシティー2024」によると、22年の世界のデータセンターによる電力消費量が4600億キロワット時と推定されるのに対し、26年に1兆キロワット時以上に達すると予測した。

 ◇リアルタイム性

 エネルギー経済社会研究所の松尾豪代表は「キロワット時(電力量)が足りなくなり、GHGプロトコルで環境価値のリアルタイム性を求める動きも出ている。再エネだけでこれら課題を解決するのは困難であり、現実的な解決策として原子力が浮上している」とみる。一方で不確実性を踏まえ、北米では天然ガス業界もデータセンター需要を虎視眈々(たんたん)と狙うと話す。あくまで原子力がデータセンター需要を賄うシナリオは、社会受容性が確保され、新技術実装を含め新増設が着実に進むことが前提だと指摘する。

電気新聞2024年5月31日