◇「多消費型」、送電網整備も必須/国・電力は誘致支援を
半導体産業は電力多消費産業で知られる。台湾では、慢性的な供給力の不足に加えて半導体工場の急激な増設等により、度重なる電力需給逼迫が課題になっている。半導体産業に勤務経験のある“かも”氏によると、特に半導体工場の電力消費の内訳は、一般に生産設備で5割弱、空調設備で4割、その他1割強程度の電気を使用すると言われている。半導体工場は微細なゴミであっても禁物であり、空調管理が極めて重要である。今回は、半導体産業の電力インフラへの影響を説明する。
半導体工場は一体どれほどの電気を使うのか。TSMCは1811億キロワット時(2021年)、SKハイニックスは231.7億キロワット時(2020年)、キオクシアは44億キロワット時(2021年)の電気を使用している。当然、工場の地点数や規模、生産している製品によって異なるものの、半導体産業は電力多消費産業と呼んでも差し支えないだろう。
◇負荷率は高い傾向
一般的には半導体工場の電気使用量はトップシークレットとされているが、半導体工場は立ち上がると24時間365日で稼働し、負荷率は高い傾向がある。更に半導体の5ナノメートルプロセスノードよりも微細プロセスを採用した工場は、特に多くの電気を活用するといわれている。連載第2回で説明したEUV露光装置は電力消費量が1台1メガワットといわれ、大量の電力を消費する。EUV露光装置は7ナノメートルプロセスノードから使用が始まり、5ナノメートルプロセスノードから大量に活用されている。TSMCは、22年夏時点で84台のEUV露光装置を保有している。
TSMCは台南市の南部科學園區Fab18 P5―P8の4棟で3ナノメートルプロセスを生産しているが、最大需要電力は88万キロワットと想定されており、現地報道によると年間需要電力量は70億キロワット時と推定されている。すなわち、この工場4棟の負荷率は90.8%、ほぼベースロードの需要であることが分かる。また、TSMCは新竹科學園區にFab18よりも更に進んだ2ナノメートルプロセス工場となるFab20 P1―P4の4棟を新設する予定だ。政府行政院環境保護署のアセスメントでは、161kV受電約95万キロワット、22.8kVで約2万キロワット、合計約97万キロワットの電力が必要になるとの見積もりが示されている。25年に完成予定のFab22(高雄市)では、161kV受電126万キロワットの電力消費が見込まれていると報道されている。これらを総合すると、前工程の半導体工場では1工場当たり、17万~30万キロワット、13億~24億キロワット時程度の電力消費が見込まれると推定できる。
◇国が主導する台湾
これほど大量の電力需要に対応するには、発電設備だけでなく送電インフラの整備も肝要である。台湾は行政院國家科學及技術委員會が新竹・中部・南部の科學園區を整備し、人材確保・電力等のインフラ整備等のニーズに応えている。第2回で説明した通り、半導体工場の立地選定においては、電力面だけではなく、様々な要件に合致した土地であることが肝要である。台湾では國家科學及技術委員會が半導体工場の誘致に適した環境を整備することで、事業者の負担を軽減している側面がある。これは、洋上風力発電におけるセントラル方式に近い考え方と言えよう。日本でも半導体工場新設に伴い、変電所新設に至っている事例があるが、効率的な送配電投資の視点や半導体事業者の負担を考慮すると、半導体工場の立地選定に当たっては、政府や一般送配電事業者による半導体事業者に対するサポートが肝要であると考える。
◆用語解説
◆科學園區 通称はサイエンスパーク。台湾行政院國家科學及技術委員會が整備・運営するものと、經濟部産業發展署や地方自治体等が運営するものがあり、本稿では前者を説明した。台湾では1979年に新竹科學園區が整備され、台湾の半導体産業発展の基礎となった。新竹科學園區の近傍には国立陽明交通大学などの研究機関も存在し、台湾における産官学連携のモデルケースである。
電気新聞2024年4月22日