◇新型コロナで半導体不足露呈/安定供給確保へ3政策実施

 昨今、経済産業省の支援を追い風に、半導体産業に関するニュースを耳にすることが非常に増えた。2022年8月に設立されたRapidus(ラピダス)は北海道進出を表明しているほか、台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(TSMC)の熊本進出などが話題になっている。キオクシアやSUMCO(サムコ)なども工場新設・増設の動きを見せている。なぜ今、半導体なのか。今回の連載では、半導体産業が電力産業にどのような影響を与えるのか検証したい。

 第1回目・第2回目では、半導体産業の実態について述べたい。今回の連載は、各種メディアやSNSで活躍している半導体エンジニア「情ポヨ」氏や、半導体産業に勤務経験のある「かも」氏との共同執筆である。

 さて、半導体産業が世間の注目を浴びるようになった契機は、20年のCovid―19パンデミックを発端とした自動車向け半導体不足であった。やがて半導体不足や国内外商社を巻き込んだ騒動に発展し、他産業向けの半導体不足にもつながった。電力業界においても、太陽光発電所向けパワーコンディショナーも、半導体不足により一時期品薄となっていたことは記憶に新しい。これら半導体不足は、企業活動をはじめとした国内外の経済に大きな混乱を巻き起こした。

 ◇政府が方針を転換

 かねてより日本では先端ロジック半導体製造を手掛ける事業者が存在せず、経済産業省はIntel(インテル)やSamsung(サムスン)等の海外事業者を誘致することでピースを埋める戦略を採用してきた。ところが今回の半導体不足や経済混乱を契機に半導体安定確保に向けた機運が高まった。政府はこれまでの方針を大きく転換、自民党は21年に半導体戦略推進議員連盟を設立し半導体を戦略物資と位置付け、その安定確保に向けて全力を入れることとなった。結果、台湾TSMCによる日本初の量産工場建設表明(21年10月)につながった。

 経済産業省は、半導体の安定供給確保に向けて大きく3つの政策を並行して実行している=※参照。1つ目がTSMC誘致を含めた先端半導体の国内製造に対する支援である。これはTSMC熊本(JASM)、マイクロン東広島、キオクシア四日市・北上の各工場が認定された。2つ目は既存のサプライチェーン強化である。ルネサスエレクトロニクス、イビデン、ローム・東芝デバイス&ストレージ・加賀東芝エレクトロニクス・ラピスセミコンダクタ、SUMCOなどの事業者が認定された。3つ目は、日本が最先端の半導体製造に回帰に向けたポスト5G情報通信システムの研究開発事業である。Rapidus千歳工場や後工程向けにTSMCがつくば市に設置したTSMCジャパン3DIC研究センター、Samsung横浜などが認定されている。

 ◇4兆円規模で投資

 これらの3つの事業に対する予算は、現時点で4兆円近くに上っており、国内各地で半導体工場の新設や増設等の動きに大きくつながっている。

 ※https://www.meti.go.jp/policy/economy/economic_security/semicon/index.html

◆用語解説

 半導体製造=半導体産業は、そのプロセスによって3つの工程に分類できる。(1)開発・設計(2)製造(前工程、半導体ウェハ製造を指す)(3)製造(後工程、組み立て・最終検査工程を指す)――である。「半導体産業」というと量産工場のイメージが強いが、3つの工程がしっかり確保できていないと半導体ビジネスは成立しない。また、その事業形態によって、半導体メーカーはさらに3種類に分類できる。開発・設計、前工程、後工程を全て自社内で完結するIDM(垂直統合)、3工程を水平分業する事業者、開発・設計行程と後工程のみ自社内で完結するファブライト(部分分業)である。

電気新聞2024年4月8日