◇新技術の拡大には「共感」が鍵/ユーザー探し 絶対条件に

 電気事業をはじめとするエネルギー産業と関連政策において現在強く望まれるのは再生可能エネルギー大量導入をはじめとする脱炭素技術の革新と社会実装の推進であり、そのためにGX(グリーントランスフォーメーション)推進下のファイナンス方策や排出量取引、税負担等の政策が検討されている。それらが奏功するためにも、研究室レベルにある革新技術の社会実装アーキテクチャーである「見える化」「ネットワーク形成」「最初のユーザー/ケース探し」が重要となる。

 前回までは情報通信研究機構(NICT)のBeyond5Gプロジェクトが展開している最先端研究の社会実装のための仕組みを紹介してきた。脱炭素を図らなければならない日本の電気事業/エネルギー産業がこうした取り組みから学ぶべきことは何だろうか。

 脱炭素の場合、たとえ研究室やラボ内だけで実現している先端技術であっても、例えば政府による豊富な実証事業、GXファイナンスによる資金投入、炭素賦課金や排出量取引による脱炭素要素の経済的優位があれば順に社会実装レベルまで育っていくことも不可能でないように見える。しかしながら、歴史上圧倒的な高いコストから始まった新商品や新技術が政府支援だけで社会に入っていった実例は稀有である。新技術のほとんどはその効能や便益を人々に知らせて共感を得るプロセスがあり、他の産業や技術と連携する工夫や最初のユーザーや拡大していくユーザーの開拓があった。

 現代の代表的産業である電力と自動車をとってみてもGE/フィリップス/東京電気によるタングステンの電球マーケティングやヘンリー・フォードによるT型フォードの量産、割符販売によるユーザー開拓がなければ今日の隆盛はなかったし、脱炭素技術(再エネ、EV=電気自動車、サステナブル商品)のような最終的にユーザーの参画が不可欠なものこそ、その価値の見える化、販路を開くネットワーク、高価格帯にする時代のユーザー探しは社会実装の絶対条件となる。

見える化、ネットワークづくり、ユーザー拡大が社会実装の鍵を握る(写真は液化水素運搬船)

 ◇補助策だけが先行

 一昨年、山地憲治先生とたくさんの有識者に参画いただいてとりまとめた「カーボンニュートラル2050」で、筆者は図のような「技術開発」「政策のサポート」「ユーザーの行動変容」の三つが連動し、それにファイナンスがついてくることが脱炭素を自律軌道に乗せる条件だと提示した=図。今までの脱炭素政策では、補助策だけが後先考えずに先行したFIT(固定価格買取制度)政策が一部地域への集中による出力抑制問題と、買取価格低下に伴う新規案件激減等で大失敗し、ユーザーの省エネ投資やEV選択といった脱炭素への行動変容を政治側の安易な電気料金引き下げへの税投入や経過措置残置、あるいは軽自動車・ガソリンへの補助策が妨害している等、連動どころか逆の動作をしているケースが目立つ。

 今回の連載でNICTのBeyond5G社会実装プロジェクトから読み取れたものは、図で言えば左側の、しかもシーズ志向の先端研究が社会実装に近づくための「見える化」「ネットワークづくり」「最初のユーザー探し」の必須性である。

 ◇具体目標を持って

 それは脱炭素技術のフロンティア領域である水素・アンモニア活用や自立グリッド関連技術にも間違いなく言えることであり、この点で日本の挑戦が始まっている一方で世界各国もこの分野の競争に注力しつつある。例えばロッテルダム(オランダ)の水素クラスターは、まだ実証ではあるが、西欧州の水素トレーディングのハブという具体目標を持って世界とネットワークし、現在の水素ユーザーからの拡大を目指すことでより早く社会実装に近づいているといえる。いつまでも研究室だけでやっていてはグリーンウォッシュだと言われかねない、ということを関係者は強く認識すべきなのではないだろうか。(この項おわり)

電気新聞2024年4月1日