東海発電所のクリアランス金属から作られたフラワーポッド(左から浦上部長、米澤市長、河藤理事長)

◆敦賀にフラワーポット18個設置

 原子力施設の廃止措置で発生した解体撤去物のうち、放射能濃度が極めて低いとされるクリアランス物。国が放射性廃棄物として扱う必要がないと認めたものは通常の産業廃棄物と同じように再利用・処分が可能だ。廃止措置の本格化により増加が見込まれるが、社会への認知が広がらず現状の再利用先は電力関係施設や公共施設向けにとどまる。そんな中で注目されるのが、福井県の取り組みだ。(山内翼)

 福井県は2020年に策定した「嶺南Eコースト計画」に基づき、クリアランス制度の社会定着に向けた理解促進活動に力を注いでいる。原子力事業者も取り組みに協力し、県内でクリアランス物の再利用品の設置が増えつつある。

 3月には日本原子力発電と敦賀駅前商店街振興組合が敦賀駅前商店街にクリアランス金属を再利用したフラワーポット18個を展示した。原電によると民間商業エリアに再利用品が置かれるのは日本初だという。

 フラワーポットの設置はクリアランス制度の理解促進に加えて北陸新幹線の敦賀延伸開業、駅前の歩道拡幅改修工事の完成を記念することが目的。原電東海発電所(廃止措置中)の燃料取り換え機のレールを再利用した。

 敦賀駅前商店街振興組合の河藤正樹理事長が原電に対しフラワーポット展示について相談。原電も北陸新幹線敦賀駅開業を契機に地域への貢献を検討していた。双方の考えが一致し、今回の展示につながった。

 フラワーポットの製作は鋳物製造を手掛ける伊藤鋳造鉄工所(茨城県東海村、伊藤秀幸社長)が手掛けた。 同社の伊藤幸司会長はクリアランス金属と通常のスクラップ材で鋳造の工程は「全く同じ。材質も何ら問題ない炭素鋼だ」と強調する。

 原電は2月21日、東海発電所からクリアランス金属約1トンを東海村内にある伊藤鋳造鉄工所の工場へ搬送。薬品のにおいが立ちこめる中、作業員が板状のクリアランス金属を電気炉で溶かし砂型に流し込んだ。

 溶けた金属は1400度にも達するという。原電社員も製造現場に立ち会い、念のため放射線量を測定したが数値に異常は見られなかった。

 冷え固まった金属は砂型から取り出され、仕上げ、塗装を経てフラワーポットが完成。3月20日、敦賀駅前商店街にフラワーポットが置かれ、同月28日にマリーゴールドやムルチコーレ、ガザニアの苗が植えられた。

 4月8日、河藤理事長と原電の浦上正雄・敦賀事業本部立地・地域共生部長が敦賀市の米澤光治市長へフラワーポットの設置について報告した。米澤市長は「嶺南地域の原子力施設7基が廃炉のステージに入り、これからクリアランス金属がどんどん出てくる」と指摘。クリアランス金属は有効な資源とした上で、その活用を広げるためにも「一般の方々に花を見て頂き、クリアランス制度に対する理解が深まれば」と期待を寄せた。

 河藤理事長も「新幹線敦賀駅の開業、歩道拡幅に言葉通り花を添えることができた。これからは我々がしっかりと花や苗の管理を行う。クリアランス制度への理解も深めていきたい」と述べた。

 嶺南Eコースト計画では福井県内でクリアランス物を集中処理する事業も構想する。集中処理を担う企業連合体が今後立ち上がる予定だ。

 足元では原子力規制庁が集中処理事業の法的・技術的論点を整理するのを目的とした意見交換会合を開催。福井県や経済産業省・資源エネルギー庁から事業の方向性について聴取し、現行の法規制で実施することを確かめている。

電気新聞2024年4月10日