◆脱炭素型の開発進むも…「移行期」重し

 ガス絶縁開閉器(GIS)や変圧器に使用される六フッ化硫黄(SF6)ガス大手からの値上げ要請について、大手電機メーカー各社は製品価格に転嫁する方針だ。SF6は温室効果が高く代替技術の開発が進むが、既設製品の需要を想定すると2040年頃まで必要との見立ても出る。SF6は需要の先細りに伴い、さらなる単価上昇は確実な情勢で、脱炭素社会への移行期に避けて通れない課題だ。(匂坂圭佑)

 ◇苦境への理解も

 SF6ガス大手サプライヤーのAGCは、4月の出荷分から90%以上の値上げを決めた。これを受け、電気新聞は大手電機メーカー5社にアンケートを実施した。8日までに4社が匿名を条件に回答した。

 2社は値上げ要請を受けたと明かした。そのうち1社は「値上げ要請には応じざるを得ない」と改定幅を調整中だ。まだ要請を受けていない1社も「要請があれば一定の値上げは認めざるを得ない」という姿勢だ。AGCは値上げに応じてもらえなければ事業継続が困難としており、サプライヤーの苦境に電機メーカー3社は理解を示している。

 SF6ガスの値上げに対し、4社が製品価格への転嫁を検討すると答えた。値上げの自助努力による吸収は困難な模様だ。

 調達先の切り替えについては「まだ検討していないが、状況による」「安価な調達先が見つかれば」といった回答があり、現時点で具体的に動いていない様子だ。ある電機メーカーは「仮に代替調達先を見つけても製品の値上げは不可避だろう」と見通す。SF6ガスの需要が世界的に先細る中で代替調達先を見つけるのは困難な上、価格の維持に有効な対策にならないと指摘する。

 ◇工程表を策定し

 日本電機工業会(JEMA)はSF6ガス代替技術への移行に向けて、低い電圧の製品から段階的に開発を進め、32年までに高電圧製品の開発を完了させる工程表を策定した。開発が完了すれば新製品にSF6ガスは用いられなくなるが、既設製品には定期点検時の充填などで使われ続ける。ある電機メーカーは「既設を含めて完全にSF6ガスからの切り替えが完了するのは40年頃になるのでは」と予測する。

 SF6ガスがいつまで必要なのかという問いに対し、別の電機メーカーは「顧客の使用状況による」「既設機器の対応があるため時期は確定できない」などと回答した。SF6ガスの需要は直近の約25年で8割以上減少したが、完全になくなる時期は見通しきれない。

 SF6ガスは絶縁性能の高さや取り扱いやすさ、設備をコンパクトにできるといったメリットが多く、電力流通設備の形成に貢献してきた。だが、SF6ガスは温室効果が二酸化炭素(CO2)の2万3900倍と高く、脱炭素社会の実現に向けて標的となった。

 AGCはSF6ガス事業の赤字が継続し、脱炭素にも逆行する理由から、株主をはじめステークホルダーから事業撤退を迫られているという。それでも「泥をかぶって」(AGC関係者)事業を続けるのは、SF6ガスが当面、電力インフラの維持に欠かせないためだ。

 仮にAGCがSF6ガス事業から撤退すると、悪影響を及ぼすと明確に回答した電機メーカーは3社あった。「GISを生産できなくなる」という懸念も出た。AGCによると、値上げ交渉の中で電機メーカーから「いつまで供給し続けられるのか」という質問が寄せられており、電力業界の危機感は強い。

 変電機器の設計寿命は約30年とされる。投資の平準化や施工能力からも、電力会社はSF6代替製品に段階的に置き換えていくと見られる。さらなる単価上昇やサプライヤーの事業環境悪化が見込まれるSF6ガスをどう確保していくのか、脱炭素社会への移行期に不可避な課題といえそうだ。

電気新聞2023年3月13日