エコキュートの普及加速には、金銭面だけでなく消費者心理に働き掛ける取り組みも重要――。電力中央研究所は独自の調査研究を通じ、エコキュート普及加速の鍵を握る「消費者の心理的傾向」を明らかにした。消費者が境遇や立場が似た人の行動に影響を受けるといった3つの傾向を統計的に解明。知人への紹介を促す仕組みなど、さらなる普及に向けてこれらの傾向を踏まえた施策の展開が重要と提案する。

 高い省エネルギー性などが評価され、脱炭素に欠かせない機器としての位置付けを確立したエコキュート。2023年度の出荷台数は前年度比減となる予測だが、中長期的に市場は成長していく見通しだ。

 今回の成果は、既設住宅の給湯器交換時において、どういった心理的傾向を持つ消費者がどの給湯器を選択するのかを定量的に分析した調査のうち、エコキュートに関する部分を抽出したもの。電中研社会経済研究所の田中拓朗主任研究員による調査で、昨年6月に論文として発表した。

 調査では、まずインタビューや先行研究を通じて消費者が持つ3つの心理的傾向を抽出し、田中氏がこれらを「ピア効果」「文脈効果」「認識効果」として整理。その上で、アンケートによる分析に基づき、3つの効果が実際に消費者の意思決定に大きな影響を与えていることを統計的に明らかにした。

 ピア効果は、人の行動が親族や友人、職場の同僚といった境遇や立場が似た周囲の人々に影響されることを意味する。調査では、給湯器の交換検討時に周囲にエコキュートを利用している人がいた消費者は、そうでない場合と比べてエコキュートを選択しやすいことを確認した。

 ◇安く感じる効果

 文脈効果は、同じ商品を購入するケースでも、状況(文脈)の違いによって同じ人でも行動が変化する現象。例えば1万円の自動車追加オプションを購入する場合、300万円の自動車本体を同時に購入する時の方が、単体で購入するよりも安く感じられることを指す。調査では、より総額が大きくなるリフォーム時の方が選択率が高まるなど、エコキュートでも文脈効果が働いている結果が得られた。

 認識効果は、人々の行動はその人が持つ印象に左右されることを表す。調査では、湯を沸かすのに時間がかかるといった電気に対して負のイメージを持つ消費者はエコキュートを選びにくいことが示された。

 田中氏は従来の補助金制度に加えて、これらの効果を利用した施策を事業者や国が展開することによって、エコキュートのさらなる普及加速が期待できると指摘。考えられる施策として、ピア効果は知人への紹介を促す仕組みやキャンペーンの展開、SNSを活用した情報発信などを挙げた。

 ◇広告宣伝強化も

 文脈効果はリフォームを支援する施策の充実と周知、認識効果は電気への負のイメージを払拭し検討の選択肢とするための広告宣伝活動の強化などが有効と想定されるとした。

 田中氏は、どうやって具体的な施策に落とし込むかを今後の研究で検討できたらいいとした上で、今回明らかにした心理的傾向を「事業者のマーケティング戦略などに活用してもらいたい」と話す。

電気新聞2024年3月27日