◆第3回/MegaWatt To MegaHash
◇再エネ活用、系統最適化を実証/社会実装と事業化へ新会社
第2回では、ビットコインが電力を価値の裏付けとした正当な金融資産と認められつつあること、ビットコイン・マイニングは極めて柔軟に需要を創出可能なDERであること、そして米国では再生可能エネルギーを利用したビットコイン・マイニングが再エネ導入促進および系統安定化に貢献していることについて、紹介した。今回は、2年間の概念実証(PoC)を経てアジャイルエナジーX設立に至った経緯について紹介する。
再エネ導入最大化と系統最適化を図るためのソリューションとして、筆者は2020年に東京電力パワーグリッド(東電PG)でMegaWatt To MegaHashプロジェクトを立ち上げ20年より段階的にPoCを実施してきた。
図1に、茨城県内の事業所において、20フィートコンテナを駐車場に設置し、コンテナ内のラックに約100台のビットコイン・マイニング装置を配備したPoC設備(合計約100キロワット)の写真を示す。当設備に電源を投入するだけで電力需要が100キロワットまで速やかに立ち上がり(数分程度で定格負荷に到達)、また電源を遮断することで瞬時に需要を停止可能であることを確認した(1台単位で電源の制御が可能)。さらに、設備稼働時にフリッカや高調波等の配電系統への悪影響がないことも確認できた。
その後、千葉県内の東京電力パワーグリッド(PG)敷地内に、20フィートコンテナ7基とビットコイン・マイニング装置約1300台(合計約1.5MW)で構成されたPoC設備を設置し、遠隔制御によりMW規模の電力需要を迅速・柔軟に創出しながらビットコインを獲得可能で、系統への悪影響もないことを確認するデータが取得できた。
当プロジェクトの成果を踏まえ、ビットコイン・マイニングをはじめとする分散コンピューティング等を用いたソリューションの社会実装と事業化を迅速に実行すべく、22年8月に株式会社アジャイルエナジーXを東電PGの100%子会社として設立した。
アジャイルエナジーXが提供するのは、ビットコイン・マイニングが電力を大量に消費するという特性を生かし、「変動する発電量に合わせて柔軟に電力需要を創出する」という逆転の発想で、再エネを余すところなく有効活用するソリューションである。電力から「デジタル価値」や「環境価値」を生み出すことで、再エネの導入拡大を後押しするとともに系統混雑を緩和し、電力の脱炭素化や地産地消へと繋げるという、日本初の(世界でも類を見ない)事業スキームの構築を目指している。
アジャイルエナジーXの主なステークホルダーとして、主に次の3者を想定している=図2。
(1)自治体【再エネ導入支援】
脱炭素を推進する自治体が導入する再エネの余剰電力を買い取り、分散コンピューティングに利用。生じたデジタル価値や環境価値等による利益の一部を自治体に還元する。脱炭素のまちづくりや、エネルギー地産地消、地域経済活性化の促進に貢献。
(2)再エネ事業者【余剰電力買取・系統連系促進】
再エネ事業者から余剰電力を買い取り、分散コンピューティングに利用。再エネ事業者は、余剰電力の買取り先が確保できることで事業採算性が向上。追加的な再エネ導入の促進も期待。
(3)一般送配電事業者/配電事業者【上げDRによる系統混雑緩和】
系統混雑エリアで分散コンピューティングによる需要を創出し、分散エネルギー取引市場を介して、一般送配電事業者や配電事業者に対し調整力を提供。エネルギー地産地消の促進によるレジリエンス向上にも貢献。
◆用語解説
◆概念実証(Proof of Concept=PoC) 新たなアイデアや事業構想の実現可能性、得られる効果などを検証するプロセス。
◆MegaWatt To MegaHash(MW2MH) 電力(MegaWatt)をデジタル価値(MegaHash)に転換する事業構想に関する筆者の造語(商標登録済み)。冷戦後に、旧ソ連の解体核兵器から取り出した高濃縮ウランを米国の商用原子炉燃料として転用した「MegaTon To MegaWatt」計画のもじり。
◆上げDR(Demand Response) 電気の需給バランスを保つため、供給過多が発生したときに電気の需要量を増やすこと。
電気新聞2023年12月4日
執筆者:立岩 健二氏
京都大学・同大学院にて原子力を専攻。1996年東京電力に入社し、新型原子炉の安全設計等に従事。2004年スタンフォード大学でMBA取得後、日本の電力会社初となる海外原子力事業への出資参画を主導。震災後、福島の責任を完遂するために画期的な新事業を探索。22年アジャイルエナジーXを東京電力パワーグリッドの社内ベンチャーとして設立。
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