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 分散多数台の電気自動車(EV)をIoTネットワーク化することで、電力ネットワークの需給調整を担う大規模発電所と相対し、需給調整への対価を獲得する。このようなバーチャルパワープラント(VPP)の実証が世界中で進められている。電気自動車は充放電を自在に行う電力貯蔵としての特徴も有するため、再生可能エネルギーのシステムレベルでの余剰電力吸収にも期待が集められている。第3回では、世界各国の事例と、東京都市大学で取り組むプロジェクトを紹介する。

図1_電力システム統合の実証_4c
 

カリフォルニアではダックカーブ対策にEVを使う実証も

 
 米国カリフォルニア州では、太陽光発電のシェアが拡大し、晴天時昼間の電力需要が極端に少なくなり日が沈む夕方には電力需要が急増する問題が顕著になってきている。昼間を背中、夕方を頭に見立てた電力需要のダックカーブと呼ばれる問題である。昼間へシフト可能な電力需要や、昼間・充電、夕方・放電を繰り返す電力貯蔵などを総動員するダックカーブ対策が検討されている。

 電気自動車を対象とした実証として、プログラム参加で100ドル、夕方の電気自動車充電をシフトするたびに1ドルの対価を得る、チャージ・フォワード・プログラムが実施されている。電力価格に需給バランスのシグナルを含むように設計してやれば、電力売買が可能な電気自動車は需給バランスに貢献する役割を果たすようになる。電気自動車の34キロワット時の電力貯蔵量は魅力的であり、太陽光発電と同様に電気自動車の普及が進むカリフォルニアでは有効だ。

 太陽光・風力発電のシェアが大きくなると、自然変動の影響が大きくなるとともに、大規模発電所を停止することによる慣性の低下や発電所による電力調整能力の低下に伴い、柔軟で機動的な電力調整リソースが求められる。

 これに対して、分散型電源、電力貯蔵、需要家機器から広く電力調整リソースを確保する電力調整市場が検討されている。米国デラウェア大学とデンマーク工科大学は、電気自動車の充放電制御機能に注目して、電力調整市場に参加させる実証を世界に先駆けて実施している。

 英国では2700台の電気自動車を電力システムに統合する大規模実証も始まった。電力調整の対価を電気自動車オーナーに還元することで電気自動車普及を後押しするビジネスモデルはシンプル・明確であり、自動車走行と電力貯蔵それぞれの機能のシェアリングの観点も相まって、リソースアグリゲーター、サービスプロバイダー、電力会社などが電気自動車の囲い込みを始めている。
 

東京都市大キャンパスでも再エネ+EVの実証展開

 
 日本でも今後太陽光発電や風力発電のシェアが拡大すると、ダックカーブ問題や電力調整能力不足が生じる可能性がある。柔軟で機動的な需要側資源が電力市場、電力調整市場に自由に公平に参加できる門戸も開かれていくであろう。

図2_東京都市大学のキャンパス実証_4c
 東京都市大学では、(1)再生可能エネルギーと電気自動車を組み合わせることでダブル・ゼロエミッションを実現(2)電力貯蔵機能を災害時・非常時電力供給や相対電力取引に活用(3)スマートメーターの向こう(Beyond the Meter)の電力ネットワークを意識したサービスを空き時間に実施し対価を稼ぐ――の新しいサービスを複合的に設計・実施し、サービスプラットフォームを志向するキャンパス実証を行っている。

 産官学金、オープンイノベーションの時代である。世田谷キャンパス実証サイトにぜひお越し頂きたい。

【用語解説】
◆慣性
電力ネットワークの発電源は交流同期発電機が主体であり、ネットワークに接続される全てのマシン(回転子と回転軸系)の重量に応じた慣性により、需給バランス変化に対して回転数(=電力ネットワークの周波数)が急には変化しにくい性質がある。太陽光発電や一部の風力発電などインバーター連系電源のシェアが拡大すると慣性が低下し、周波数変動が生じやすくなる可能性が指摘されている。

電気新聞2018年8月13日

(全3回)