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 電気自動車(EV)の多くが停車される住宅は、電気を配る配電ネットワークの末端に位置している。太陽光・風力発電は、小規模分散でクリーンな電源であるため住宅の屋根上(太陽光)や住宅地の近郊(風力)にも偏在し、その多くが配電ネットワークに接続されている。第2回では、新しいテクノロジー、規制緩和、多彩なプレーヤーの参画、そして、電力会社の動きにダイナミズムが見られる配電ネットワークと電気自動車のシステム・インテグレーションの姿を描く。
 

多種多様な配電ネットワークは、問題もそれぞれ

 
 配電ネットワークは都心、郊外、地域など、多様である。一般的な構成として、配電用変電所からフィーダーと呼ばれる配電線が伸びており、数百から数千の住宅・ビル・オフィス・工場など様々な電力負荷が接続されている。このような住宅地、商業地、工業地で電力使用パターンが異なるところに、太陽光・風力発電と電気自動車がたくさん導入されると、電力潮流や電圧の分布が複雑になり、ネットワークの混雑も生じやすくなる。

 例えば、メガソーラーの接続が多く工場・オフィスなどの昼間負荷が小さいフィーダーでは、晴天時でのフィーダーの下流から上流への逆潮流がネットワーク混雑の主要因となる。住宅への電気自動車の接続が多いフィーダーでは、夕方帰宅後に電力需要が集中する問題も懸念されている。

 

太陽光だけ、EVだけの所有者のための解とは?

 
図_電気自動車再エネDSOの役割_4c
 太陽光発電と電気自動車の両方を持つ場合、電気自動車の電力貯蔵機能を活用して太陽光発電の自家消費と電力需要のピークシフトができることを前回紹介した。では、太陽光発電、電気自動車それぞれしか持たない場合はどうすればよいか。

 答えはシンプルで、太陽光発電の余剰電力を売りたい住宅所有者と再生可能エネルギー由来の充電を行いたい電気自動車所有者を結ぶことである。最近では、ブロックチェーンの分散台帳管理、スマートコントラクトの仕組みを活用して、自動的に、セキュアに、手間やコストをかけずに相対電力取引を実現するスキームが検討されている。

 以上のようなスマートメーター後ろの住宅内のエネルギーマネジメント、スマートメーターの間での相対電力取引は、配電フィーダーの電力潮流の過不足を解消させる一種の効果を持つことが予想される。つまり、分散型電源と電気自動車の個々の相対電力取引は、配電ネットワーク全体の効率的な利用に貢献できる。
 

多様性を考慮し、配電の運用をAIにまかせるという考え方も

 
 配電ネットワーク運用者であるDSO(Distribution System Operator)は、多様多彩な分散型電源や電気自動車などプレーヤー間の電力取引を最大化させながら、ネットワーク運用・制御を効果的に遂行する役割が期待されている。スマートメーターや変電所・主要ノードの電力メーターから電力取引の状況やネットワークの時々刻々の混雑具合を把握し、ネットワークの空き容量や電力取引の近接性などに応じて大胆に配電ネットワーク利用料金を設定する取り組みが、英国や米国ニューヨーク州で施行されている。ネットワークの各部分の利用効率を向上させる効果とともに、ネットワーク増強や配電制御機器設置を行う地点も見えてこよう。配電ネットワークは多様であるため、DSO機能を人工知能(AI)に任せることで、地域性や多様性を考慮した最適なソリューションを見いだすことも有効である。

 電気自動車所有者が、再生可能エネルギー由来の電力を近隣から安価で簡単に購入し、潮流混雑の時間帯には電力の販売を行うシンプルな営みが、近隣の配電ネットワークの効率的利用につながり、その結果、配電ネットワーク利用料低減が期待できるわけである。電気自動車はこのようなポジティブスパイラルの一端を担う可能性を秘めている。

【用語解説】
◆電力潮流
電力ネットワークを流れる物理的な電力の流れのこと。火力・水力発電所などから発電された電力はネットワークを上流から下流に流れ、オフィス・工場・住宅の負荷で消費される。ネットワークの途中に太陽光・風力発電や電力の充放電が可能な電力貯蔵が存在する最近の環境では複雑化する電力潮流の管理が課題の一つとなる。

◆DSO
分散型電源や電気自動車が高度に導入された配電ネットワークにおいて、スマートメータを含むセンサーネットワークやIoT(モノのインターネット)を積極的に利用してネットワークの電力潮流・電圧管理を実行するシステム・オペレーター。分散型電源、電力貯蔵、デマンドレスポンスなども活用して時々刻々のネットワーク利用を最適化するとともに、効果的なネットワーク増強を判断する。

電気新聞2018年8月6日