三菱電機が公開した伊丹製作所内のモーター製造エリア

◆品質管理のISOを再取得、安定・安全運行への貢献、誇りに

 国内外に立地し、企業のものづくりの根幹を支える工場。多彩な製品製造を通じて社会に貢献する工場たちを記者が訪ね、その「素顔」をリポートする。

 ◇ニーズ反映し

 三菱電機の伊丹製作所(兵庫県尼崎市)は鉄道車両の「走る」「止まる」「制御する」に関する様々な製品を開発・製造し、交通事業の中核を担う。鉄道業界に脱炭素化の波が押し寄せる中、省エネルギー製品をさらに拡充するため、顧客のニーズをより反映した技術開発にまい進している。

 伊丹製作所は鉄道車両の心臓部であるモーターをはじめ、多種多様な車両機器を一括制御するシステムや、ブレーキから生じる回生電力を駅で有効活用する「駅舎補助電源装置」を製造。停車駅や運行状況を映像情報で知らせる「トレインビジョン」なども手掛ける。

 従業員は約950人。研究所やほかの製作所など8カ所の拠点と隣接し、全体の敷地面積は同社最大の約38万平方メートル(東京ドームおよそ8個分)を誇る。製品は国内外に販売し、日本を含めた33カ国・地域で累計約8万3千両の車両用電機品を受注(3月時点)。2022年度の社会システム事業の売上高は約3957億円で、このうち鉄道分野が最も高い割合を占める。

 1月には改装した所内のショールームがオープンした。居眠りなど運転手の異常を検知するシステムや、世界最高レベルの高効率を売りにしたモーターなど、展示物を交え最新技術を紹介している。

 このほど国内の鉄道事業者向けに展開する製品の製造現場を報道陣に公開。制御機器や液晶表示装置、駆動機器の工場を案内した。

 ◇不正乗り越え

 三菱電機は伊丹製作所で製造する鉄道車両用品で不正な試験が行われたことから、昨年7月に同製作所の品質管理の国際規格認証などが取り消された。現在は試験作業の自動化や従業員の意識改革を進め、今年9月に品質管理の国際規格「ISO9001」の再認証を受けた。所内について積極的に情報公開することで、顧客のニーズを技術開発に反映しやすくしたい考えだ。

 伊丹製作所の都築貴之所長は「交通システムは社会インフラを担う非常に重要な事業。安定・安全運行に貢献できることは誇りである一方、責任が重い。しっかりと技術開発を進めていきたい」と強調。「モーター技術やデータを活用した効率的な運転システムなど、カーボンニュートラルに貢献できるポテンシャルはある」とし、技術開発を加速する構えだ。(随時掲載します)

◆取材後記

 新ショールームで目を引くのは列車を模した展示スペースだ。座席や吊り革、行き先の液晶画面などを設置することで車内を再現し、鉄道関連技術を紹介している。取材当日は運転手の異常を検知するシステムを実演。運転席に座った社員が眠るそぶりを見せると、席の画面に警報が表示された。目線やあくびなど、ささいなしぐさも検知できるというから驚く。乗客の安全を守るため、見えないところにも同社の技術力が生かされていることに心強さを感じた。(成田茉由)

電気新聞2023年11月14日