タブレット端末の液晶ディスプレーに、ずらして置いた透明アンテナ

◆広がる設置領域、意外な用途も

 三菱電機が、透明アンテナの研究開発を進めている。無線通信の発展に伴いアンテナが急速に拡大する中、製品を透明化することで周囲の景観や建物などのデザインを損なわず設置場所を広げる狙いだ。すでに窓ガラスや液晶ディスプレーへの実装技術で特許を取得した。同社情報技術総合研究所の稲沢良夫・アンテナ技術部長は「3~4年の間に製品化したい」と意気込みを語る。

 ◇放射効率高める

 透明導電材料は液晶のタッチパネル用途で開発が進む。通常の金属より抵抗が高いため、三菱電機はアンテナ形状を工夫して実用化を目指す。透明導電材料には東レの「レイブリッド」を採用した。

 三菱電機は液晶ディスプレーを覆うように透明アンテナを設置する技術を開発した。透明アンテナと金属フレームの間から電波を放射する設計にすることで損失電流を抑え、より広範に通信できるようにした。放射効率は従来方式と比べ2.3倍に高めた。タブレット端末などの通信エリア拡大や通信強度強化につなげられる。

 窓ガラスへの実装技術も開発した。従来方式は給電ケーブルの露出が課題だったが、非接触給電により窓ガラス上からケーブルをなくした。窓ガラスは電波のよい場所に取り付けられている場合が比較的多く、透明アンテナとの親和性が高い。建物内の通信環境を改善する用途などが期待できる。

 アンテナ用途ではないが、透明導電材料を電子レンジに応用する技術も開発している。電波で加熱する電子レンジは扉から中が見えるようにはなっているが、電波を外に漏らさないように金属板に多数の穴を空けた電磁シールドを扉の内側に設けているため内部が鮮明に見えない。材料を変えることで視認性が高まり、調理中に内部を確認しやすくする。

 

 ◇市場規模拡大へ

 透明アンテナの市場は今後、拡大していく見込みだ。グローバルインフォメーションによると、5G(第5世代移動通信網)透明フィルムアンテナ市場は2030年まで年平均18.5%で成長し、17億7千万ドル(約2660億円)に達する。車載用だけでも30年までの年平均成長率7.1%、市場規模4億7千万ドルに拡大すると米レポートオーシャン社は見立てている。三菱電機は透明アンテナの要素技術を確立し、今後は量産製造技術の開発を進めながら製品化を目指す。

電気新聞2023年10月30日