ガスタービンの水素燃焼実証が行われる三菱重工の高砂製作所

 三菱重工業が高砂製作所(兵庫県高砂市)で、ガスタービン(GT)の水素燃焼実証を本格化する。同製作所内に水素製造装置と貯蔵設備を整備し、11月から大型GT実証設備で30%混焼、来年には50%混焼を始める。実機による検証で信頼性を高めてから商用化を果たす。30年には水素専焼技術を確立する計画だ。

 高砂製作所には電力系統につながった実証用ガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)発電所(56万6千キロワット)がある。GTの長期発電実証を工場敷地内で行っているのは世界で唯一だ。

 水素燃焼実証について、三菱重工の東澤隆司シニアフェロー・GTCC事業部長は「技術的には完成しており、最後の検証という位置付けだ」と解説する。燃焼器1本単位では専焼まで達成しており、実証発電設備で技術開発を仕上げる方針だ。

 実証のために水素製造装置と貯蔵設備を高砂製作所に設置し、「高砂水素パーク」として9月から稼働を始めた。5100キロワットのアルカリ水電解装置は単体として世界最大級だ。製造した水素を200気圧に高めて圧縮し、350本のボンベに貯蔵する。水素混焼率30%の大型GTを1時間稼働できる体制を整えた。

 50%混焼ではさらに多くの水素が必要なため、来年にボンベを約3倍の1100本に増やし、貯蔵能力を強化する。来年には4万キロワット級GTの専焼実証も行う予定だ。

 水素製造装置も拡充する。三菱重工が開発中の固体酸化物型電解セル(SOEC)を設置する。固体酸化物燃料電池(SOFC)を逆反応させる仕組みで、水蒸気に電力を流して水素を取り出す。まず来年に400キロワットの装置を置いて検証し、26年に5千キロワットに大型化した装置を入れる。

 アニオン交換膜(AEM)水電解装置も設置する。小型な設計が特徴だ。メタン熱分解方式の水素製造装置も導入する。天然ガスから水素を取り出す手法で、既存のガスインフラを生かせる。国や地域によって再生可能エネルギーの導入量や発電コストが異なり、最適な水素調達方法にも違いが生まれるため、三菱重工は様々な水素製造技術をラインアップする。高砂水素パークは26年に完成する予定だ。

 東澤事業部長は「実際に水素をつくってGTを回せることを示すことに大きな意義がある」と話す。発電事業者や政府関係者、金融機関など世界各国から高砂製作所の見学に訪れる中、水素社会の到来を実感してもらいたい考えだ。

電気新聞2023年10月20日