三菱重工総合研究所長崎地区に設置されたCO2回収試験装置
編注

◆世紀越え、多彩な知見育む/アンモニア燃焼、水素など

 三菱重工業は、長崎造船所(長崎市)と総合研究所長崎地区(同)をまとめて「長崎カーボンニュートラルパーク」と8月に命名し、脱炭素化技術の研究を推進している。ボイラーのアンモニア燃焼や二酸化炭素(CO2)回収、水素製造といった脱炭素社会に欠かせない研究テーマを多数扱う。各技術開発とも様々なアプローチで挑んでおり、脱炭素への多様な道筋を社会に提供する方針だ。(匂坂圭佑)

 長崎造船所は三菱重工創業の地だ。起源は江戸時代の1857年、徳川幕府の長崎鎔鉄所までさかのぼる。三菱重工は1884年に長崎造船所を借り受けて誕生したため、会社の歴史より古い。船舶や発電プラントをはじめ、現在は航空エンジン向け燃焼器工場の拡張も進めており、166年にわたり産業の発展を支えてきた。敷地内には鋳型の元となる木型をつくった「旧木型場」や、日本初の電動クレーンなど世界遺産も多い。

 三菱重工が日本の9地点で展開する総合研究所のうち、長崎は三大拠点の一角を占める。長崎は研究所としての歴史も古く、1904年の設立から数えて119年になる。

 総合研究所副所長・長崎地区統括責任者の茨木誠一氏は「歴史の中で積み重ねてきた幅広い技術開発が特長」と話す。カーボンニュートラルには様々な技術の組み合わせが必要と説く。ボイラーの脱炭素化は研究テーマの代表例だ。三菱重工は年産590万キロワットと国内最大のボイラー生産能力を有し、3分の2の国内シェアを握る。さらに、旋回燃焼と対向燃焼という主流ボイラー2種類をどちらも開発している。外野雅彦長崎造船所長は「どのタイプのボイラーにも技術を適用できる体制を目指す」と意気込む。

 ◇混焼率50%以上

 バイオマス専焼技術はすでに確立し、現在はアンモニア燃焼に取り組む。政府のグリーンイノベーション基金を活用し、三菱重工はJERAと連携し、混焼率50%以上の技術開発を目指す。実現に向けて長崎の研究所に大型アンモニアタンクを設置した。実機と同じサイズのバーナーを備えた試験炉で燃焼試験を始める体制を整えた。

 石炭火力の新設計画がなくなり、三菱重工は「2050年頃に既存石炭火力はガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)に建て替わるのでは」(外野所長)と見立てる。ボイラーよりGTCCの方が発電効率が約1.5倍高く、「アンモニアを分解して水素を取り出すエネルギーを考慮してもメリットがある」(外野所長)と分析するためだ。

 ただ、ボイラーや石炭燃料が50年頃までになくなる状況も想定していない。脱炭素への対応策として、バイオマスやアンモニアの燃焼技術、CO2回収技術の研究が必要とする。CO2回収では吸収液のコスト低減や、回収装置の小型化などが研究テーマだ。排ガス性状によって吸収液の劣化度合いが変わる中、顧客の要請に合わせた吸収液を開発する。コスト低減では、吸収液をどこで製造して顧客に納入するかも検討項目になる。

 ◇3種の技術開発

 水素製造では3種類の技術を開発する。一つは固体酸化物型水電解セル(SOEC)で、蒸気と電力から効率よく水素を製造する。固体酸化物型燃料電池(SOFC)の逆反応を行う仕組みで、既存技術を生かす。24年に数百キロワット級のSOECモジュールで開発検証を始める予定だ。

 2つ目はターコイズ水素と呼ばれる技術で、メタンを熱分解して水素を取り出す。既存の天然ガスインフラを活用して安価に導入可能だ。炭素を固体で取り出すため埋設などの処理もしやすい。26年以降に商用化を目指す。

 3つ目はアニオン交換膜(AEM)水電解で、電解槽の小型化に貢献する。貴金属の使用量を減らせるためコスト低減や、素材の安定調達面も利点だ。3種類の水素製造装置を高砂製作所高砂工場(兵庫県高砂市)に導入し、ガスタービンの水素燃焼技術の開発にも生かす。

 外野所長は「カーボンニュートラル社会に向けた予見性は低く、自分たちの武器である技術はたくさん持っておく必要がある」と強調する。長崎地区は研究開発の要衝として技術を磨く。

電気新聞2023年9月20日