核融合発電開発はこれまで、多国間の巨大プロジェクトが主役だった(写真は東芝がITER向けに出荷したトロイダル磁場コイル)

◆革新分野でスタートアップが台頭

 ◇「30年代半ば」へ各社しのぎ/日本勢、存在感じわり

 太陽と同じ原理でエネルギーを生み出す核融合発電の実用化に向けて、日本のスタートアップが存在感を発揮している。新興ならではのスピード感を武器に、2030年代半ばの発電開始を目指し、要素技術開発や実証試験の準備が加速してきた。スタートアップ台頭の背景を概観するとともに、注目を集める国内3社のトップに事業戦略を聞いた。

 ◇世界を変える

 核融合のように世界の課題解決に資する高度の革新技術は「深い所に眠る技術」という意味を込め、「ディープテック」と呼ばれる。実用化までに膨大な時間とコストを要するため、従来は複数の国や大企業がかかわる巨大プロジェクトが開発の主役を担ってきた。国際熱核融合実験炉(ITER)はその象徴だ。

 新たにスタートアップが存在感を高めてきたのは、気候変動対策が世界の共通課題として認識され、投資家から新興企業へのリスクマネー供給が進んでいることが背景にある。

 核融合にかかわる米業界団体のフュージョン・インダストリー・アソシエーション(FIA)が7月に公表した23年版報告書によると、核融合企業への投資額は世界全体で前年比約3割増の62億ドル(約9050億円)に達し、そのうち95%を民間投資が占める。

 米マサチューセッツ工科大学(MIT)発のコモンウェルス・フュージョン・システムズ(CFS)は、その勢いを象徴する企業だ。ITERでも採用された「トカマク型」の核融合炉の実用化を目指す。米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏やグーグルの出資を取り付け、21年に2千億円超の資金調達を実現した。

 巨額の投資が動く世界で、日本のスタートアップも着実に歩みを進めている。FIAの報告書は22年の前回調査以降実施された注目すべき投資の一つに、京都大学発新興の京都フュージョニアリング(東京都千代田区、 長尾昂代表取締役)が23年5月に公表した105億円の資金調達を挙げた。

 同社は核融合炉そのものではなく、周辺の特殊プラント機器の開発技術に強みを持つ。現在は世界初となる核融合発電の統合実証プラント「UNITY」の建設を進めており、24年末の発電試験開始を見込む。

 自然科学研究機構核融合科学研究所の研究者らが創立したヘリカルフュージョン(東京都中央区、田口昂哉代表取締役)は、二重らせん状コイルを使い、磁場の力でプラズマを閉じ込める「ヘリカル型」による核融合発電炉開発を目標に掲げる。20年代後半に実験炉を建設し、34年に定常運転できる発電炉を開発する構想だ。

 大阪大学発のEXーFusion(エクスフュージョン、大阪府吹田市、松尾一輝CEO)は燃料ペレットに強力なレーザーを照射し、圧縮・加熱することで瞬間的に核融合反応を起こす「レーザー核融合」の実用化を目指す。29年の技術実証、35年の発電実証を目標に掲げ、技術開発を進めている。

 ◇規制の議論も

 核融合発電にかかわる安全規制の議論も注目を集めている。先行する英国、米国では原子力発電とは異なる許認可・安全規制が必要との方向で検討が進む。

 文部科学省は国際協調による規制の議論を進めるため、政府間規制協力ネットワーク「アジャイルネーションズ」の下に設置されたワーキンググループ(WG)での議論を共有する方向を打ち出した。「数十年先の技術」と思われがちな核融合の社会実装を見据え、様々な動きが進んでいる。

電気新聞2023年9月6日