護法天堂での温風処理をコントロールするシステム

 関西電力は、木造建材などを食い荒らす害虫の駆除技術を開発し、指定文化財への適用を開始した。対象建築を覆い、温度を60度まで上げて死滅させる。温度と湿度をヒーターやエアコンで精緻に管理。漆塗りなど日本建築の魅力を損なわないよう、木材にストレスを与えず処理する方法を確立した。現在は日光山輪王寺(栃木県日光市)の護法天堂で害虫駆除を実施している。指定文化財の木造建築物に、湿度制御を伴う温風処理を用いたのは世界初という。

 システムは木材加熱用のヒーターや加湿器、空気循環用ファンなどで構成。冷却には家庭用エアコンを使用した。木材の含水率が急激に変化しないよう、温風処理後はゆっくり冷却する。

 木造建築の害虫駆除手法として化学薬剤を使ったガス薫蒸もあるが、安全性に課題があった。温風処理はプロパンガスを用いた手法が欧州で採用されているが、湿度の管理ができず自然大気で冷却するため、結露が発生する。水滴によるシミなどが懸念され、日本の指定文化財には採用できなかった。

 国内では電気を使った温風処理について、有識者による技術開発が進んでいた。関電はその技術を改良するため、ヒートポンプの知見を生かした試験設備を神戸市内に設置。2019年度から温風処理技術の実験を3年かけて行った。22年度からは宮大工の訓練用社殿で実証実験を開始。日光という土地柄を踏まえて騒音が少ないシステムを構築したほか、使用電力量も大幅に削減した。文化庁から指定文化財への技術適用が認められ今年度から事業化している。

 最初の適用案件となった護法天堂は、輪王寺の境内の中で国の重要文化財に指定された最古の建造物。現在は建物を解体し、建材を一カ所に積み上げて温風処理を行っている。今後は像や家具などへの技術適用も目指す。菌類の抑制効果も確認しており、水没した書類などへの活用も視野に入れる。

 日本では文化財に木材が多用されている。紫外線や風化だけでなく、害虫による劣化も含めた対応が大きな課題だった。指定文化財は柱などの建材自体に値打ちがある。同じ部材を長く使うには虫を駆除するしかない。輪王寺の今井昌英執事長は「ほかの害虫駆除方法は事実上なく、文化財建造物の害虫駆除のスタンダードとして普及してほしい」と話す。

電気新聞2023年9月11日