関西電力は、原子力発電を活用し、二酸化炭素(CO2)を排出せず水素を製造する手法を実用化する。今年2月まで行った実証事業では、発電からエンドユーザーへの供給までの流れをトラッキング(追跡)して、原子力由来の水素と特定することに成功。水素は福井県敦賀市の公設地方卸売市場に設置したシステムで製造し、そこで燃料電池車(FCV)などへ供給した。今秋から実証範囲を拡大する計画。水素の製造地点から離れた場所の利用でもトラッキングが可能か検証する。

 実証では敦賀市に設置したシステムで作る水素を、原子力発電所のタービン発電機冷却材として利用する。もともと冷却材として水素が使われているが、福井県嶺南地域の地産地消エネルギー活用をアピールする。

 原子力で発電した電力はそのまま利用する方がエネルギー効率は高い。一方で、水素に変換すれば貯蔵や輸送できる利点が生まれる。水素の国内製造はエネルギー安全保障の観点から一定程度必要で、需要が高まる見通し。

 ただ、水素の利用段階では電気分解にどの発電方法を活用したかが分からない。社会実装に向けて、製造から利用までの流れを特定し、CO2排出削減量を可視化する仕組みが必要だった。

 関電は昨年12月から美浜発電所、高浜発電所、大飯発電所で発電した電力を原子力由来の水素と特定するため、トラッキングシステムを活用した実証事業を進めてきた。発電日、水素の生成時刻や量、充填先を把握できるか検証。実証期間中、公設市場に設置されたシステムで約700ノルマル立方メートルの原子力由来水素を製造、「カードル」と呼ばれる専用容器やFCVに供給した。

 発電時にCO2を排出しない原子力由来の水素製造は国内初の試み。実証で得たノウハウは2025年の大阪・関西万博に生かす。今後、具体的な水素の利用方法の検討を加速する。敦賀市は実証に合わせて水素供給の大規模・広域化に向けた可能性調査も行う。

電気新聞2023年8月24日