大規模改修の方針が示されたSPring-8(理研提供)

◆29年度完了目指し

 文部科学省は、大型放射光施設「SPring―8」(兵庫県佐用町)の高度化・省エネルギー化を目的とした大規模改修に乗り出す考えだ。欧米や中国が計画・運用している同様の施設に性能面で見劣りしないようにするため、放射光の輝度を従来に比べて100倍に高める。改修費は約480億円。早ければ2024年度から改修に着手し、29年度の更新完了・供用開始を目指す。

 電磁石電源を含む加速器のリプレースも行う。これにより、年間の電気代を20億~30億円から約10億円に削減し保守費用も減らせる見込みだ。

 文科省は5月に山本左近・文部科学大臣政務官を座長とする「SPring―8の高度化に関するタスクフォース」を設置。改修について非公開で検討を重ね、今月8日に報告書を公表した。

 SPring―8は供用開始から25年以上が経過。報告書では「旧世代の施設」と位置付け、更新しないままだと電気代や保守費用が増加の一途をたどることを指摘している。特に加速器の電力効率が悪くなっているという。

 放射光の輝度が100倍になることで、高精細なデータを短時間で取得できる。アクチノイド元素や遷移金属の詳細な観察、先端半導体の材料開発などが用途として見込まれる。

 日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)と理化学研究所(理研)は1991年、SPring―8の建設に着手。97年10月から供用を開始し、エネルギー・原子力を含む多様な分野の物質研究、製品開発などに活用されてきた。

 翌98年7月に起こった「和歌山カレー事件」(カレーへの毒物混入による死傷者発生)では、死因となったヒ素の分析にSPring―8の蛍光エックス線分析が用いられ、事件解決の決め手となった。この科学鑑定が当時の最先端研究施設としての存在感、認知度を大きく向上させた。

 現在は理研と高輝度光科学研究センターが共同でSPring―8を運営している。原子力機構は05年に運営から離脱したものの、専用のビームラインを2本持っている。

電気新聞2023年8月18日