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 人工知能(AI)やロボティクス、ブロックチェーンなどデジタル技術に加え、新たな発電技術やエネルギー貯蔵技術など、エネルギー技術を活用した新しいエネルギー産業の創出が期待される。今回は、エネルギー産業の変革の一翼を担うことが期待されるエネルギーベンチャーについて議論する。

グラフ_ベンチャー投資額_4c

 

経済活性化へベンチャー支援の動きが活発化

 
 日本経済を活性化する施策の一環として、ベンチャー企業による新事業創造を後押しする動きが活性化している。一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンターによると、2017年度のベンチャー投資金額は1787億円となり、過去5年間で最大の投資額を記録した。

 経済産業省は、選抜されたベンチャー企業の成長を加速化する「J―Startup」といった取り組みに着手し、シードステージ・アーリーステージのベンチャー企業育成に加えて、ユニコーン企業創出まで支援領域を拡大している。

 大企業もオープンイノベーションの一環として、ベンチャー企業への出資、ベンチャー企業との協業を積極化している。エネル社やエンジー社など欧州のエネルギー企業は、ベンチャー企業との協業を通じて新技術や新サービスを積極的に取り込み、電力システムの分散化や脱炭素化に対応しようとしている。

 日本の電力・ガス会社でもコーポレートベンチャーキャピタルを創設し、ベンチャー企業へ投資するなど、同様の動きが加速化している。一方、2017年2月に東証マザーズに上場したレノバをはじめ、Looopやパネイルなど、ベンチャー企業の存在感が徐々に高まっているものの、その規模は欧米と比較するとまだ小さい。

 エネルギー・工業分野における2016年のベンチャー投資額は、米国が2410億円、欧州が410億円であったのに対して、日本は40億~80億円にとどまる(図1)。同分野における日本におけるベンチャー投資額は米国の2~3%、欧州の10~20%ということになる。

 

悪循環を断ち切るには業界大でエコシステムの確立を

 
 国内のエネルギーベンチャーの数は依然限定的であり、エネルギーベンチャーを支援する環境も十分に整っているとは言い難い。結果、エネルギー分野に起業家が集まらず、エネルギーベンチャーの数が増えないという悪循環構造に陥っているのが現状だ(図2)。

図_課題と対応策_4c
 エネルギー産業が分散化や脱炭素化という流れに対応していくためには、情報通信産業やバイオ産業と同じように、ベンチャーエコシステムをエネルギー産業として構築するのが効果的だ。

 そのため、大手エネルギー企業による社外起業家の登用や社内起業家の流動化、官民一体となったエネルギー産業の将来ビジョンの共有、ベンチャーキャピタルをはじめとする関連産業におけるエネルギー専門人材の育成など、業界大での取り組みが期待される。

【用語解説】
◆シードステージ・アーリーステージ
ベンチャー企業・スタートアップ企業の成長段階を区分したもの。シードステージとは、まだ事業化を目指して研究開発や事業計画に取り組んでいる段階を指す。アーリーステージとは、事業開始間もない段階を指す。

◆ユニコーン企業
企業価値が10億ドル(約1100億円)以上の未上場ベンチャー企業。

◆コーポレートベンチャーキャピタル
事業会社がベンチャー企業に投資を行うこと、およびそのために設立した組織や基金。CVCとも言われる。

電気新聞2018年5月14日 

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