府中変電所に導入した自然由来ガスのGIS(右)

 東京電力パワーグリッド(PG)は、SF6(六フッ化硫黄)ガスを使わないガス絶縁変圧器を国内で初めて採用する。温室効果の高いSF6ガスの代わりに、自然由来のガスを絶縁媒体に使用するのが特徴。2026年中の初号機導入を目指して検討中だ。同じく代替ガスを使ったガス絶縁開閉装置(GIS)と組み合わせることで、環境性と防災性を兼ね備えた次世代変電所の先駆けとなる。

 現在主流のSF6ガスは一長一短がある。優れた絶縁性能と不燃性を備える一方、地球温暖化係数が二酸化炭素(CO2)の2万5200倍と高い。このため東電PGはガスの漏えい防止対策を講じながら、SF6ガスを用いる絶縁変圧器やGISを運用している。

 SF6ガス絶縁変圧器は地下変電所を中心に約30年前から導入されてきた。油入変圧器と違って事故時に爆発や火災を起こすリスクがない。防災上の理由で別々に設置していた変圧器とGISを直結することが可能で、地下の建物容積を約7割縮小できる利点もある。

 昨年5月には、地下変電所の新設時だけでなく更新時にもガス絶縁変圧器を標準採用する方針を決めた。導入拡大をメーカーに周知することで、コストを下げるのが狙いだ。

 土地面積が限られる都市部では、屋外変電所にも導入されている。17年1月に運開した大井ふ頭変電所は、ガス絶縁変圧器とGISを組み合わせることで従来の気中絶縁変電所に比べて敷地面積を86%削減。27万5千V変圧器を3台設置した屋外変電所としては、世界最小を誇る。

 一方、カーボンニュートラルを見据えてSF6ガス使用削減の流れは国際的に加速。東電PGはメーカーと連携し、6万6千V級を手始めに、自然由来の代替ガスを用いる機器の開発・導入に取り組んでいる。 

 新たに採用予定のガス絶縁変圧器はその成果の一つで、窒素などを絶縁媒体に使用する。2万2千V受電の屋外変電所を6万6千V受電に更新するのに併せて、変圧器とGISを代替ガス機器に取り換える計画だ。

 代替ガス機器は、優れた性能を持つSF6ガスに比べて大型化してしまう課題がある。まずは屋外変電所で導入を増やし、技術的にこなれて小型化が進展した段階で地下変電所に適用していくシナリオを描く。

 既に代替ガスGISは他社に先駆けて府中変電所に導入し、今年2月に運用を開始した。窒素と酸素を混合した「ドライエア」を絶縁媒体とする機器で、東芝エネルギーシステムズがGIS全体、明電舎が真空遮断機の開発を担当した。

 ドライエアはSF6ガスに比べると膨張率は約3倍、絶縁性能は約3分の1と見劣りする。それを補うため、複雑な形状でも容易かつ安価に作れる鋳物に着目し、タンクを最適化したり、導体にコーティングを施したりするなど工夫した。設計はSF6ガスGISをほぼ踏襲し、設置面積は更新前の初期型GISと同等以下に収めた。

 代替ガス機器はサイズやコストの問題に加え、大容量・高電圧化が難しいという課題もある。それらをどう克服してカーボンニュートラル時代に対応していけるかが、今後の大きなテーマとなる。

電気新聞2023年7月11日