◇必要性急上昇、成否のカギは/役割明確化、裁量権など不可欠

 昨今、企業にとって重要な課題となっているDX(デジタルトランスフォーメーション)。数年前まではIT・通信業界と一部の先進的な事業会社のみが取り組んでいたが、コロナ禍を機にあらゆる業種・規模の企業に広がり、加速している。各社、DX推進人材の採用に動いているが、苦戦を強いられている状況だ。人材争奪戦が激化する中、人材を確保できている企業と確保できていない企業には取り組みの姿勢や内容にどのような違いがあるのかに注目してみよう。

 まずは、企業におけるDXへの取り組み、DX人材の採用の変遷を振り返ってみよう。コロナ禍以前にDX人材を採用していたのはIT企業やコンサルティングファーム、一部の先進的な大手事業会社に限られていた。しかしコロナ禍の影響により、リモートワークの導入や営業活動・接客サービスのオンライン化などを余儀なくされ、意識が変化。多くの企業がデジタルによる「変革」へ舵を切った。2020年4~6月、リクルートに寄せられたDX関連の新規求人は、19年同月比で約4倍に増加。求められたのは、「DX推進責任者」「プロジェクトマネジャー」などのほか、「データサイエンティスト」「データアナリスト」などだ。

 リクルートではこの時期より人事担当者を対象とした調査を開始した。「DX人材」の確保について、「必要」と回答した人事担当者は、20年度では26.2%だったが、21年度には41.6%へ上昇している。そして21年終盤、「必要」と回答した人に確保状況を聞いたところ、「大幅に少ない」(32.4%)、「多少少ない」(36.2%)と、7割近くが「少ない」と回答。採用に苦戦している状況が見てとれた。


 ◇幅広い業界に拡大

 そして22年、DXの動きはさらに幅広い業界へ拡大した。また、「業務オペレーションをデジタル化して生産性を上げる」というフェーズから、「デジタルを活用してビジネスモデルを変革する、新たな価値を創出する」というフェーズへ発展させる企業が増えている。これに伴い、人材争奪戦はさらに過熱。現在も採用難の状況が続いている。

 22年時点で実施した調査では、DX人材を確保できた企業と確保できなかった企業の差が浮き彫りとなった。経済産業省の「DX推進指標・定性指標」の項目に基づいてヒアリングを行ったところ、「レベル3」以上で実行できているかどうかが成否の分かれ目となっていたのだ。「レベル3」に該当する内容については図に示した。

 要点をまとめると、DX人材の確保に成功している企業に共通するのは、「役割を明確化している」「担当者に裁量権を付与している」「全社で、横串を通して取り組んでいる」「成果を評価する仕組みがある」などだ。これらが欠けていると、なかなかDX人材の採用に至らない、また、採用できても活用しきれず早期離職につながってしまっている。

 さらに具体的にいえば、DX人材採用の現場では次のようなことが起きている。

 「経営トップからDX人材採用を指示されるが、どのような人材が適切なのかわからず、採用活動を始められない」「必要なスキル要件を挙げたものの、それをすべて満たす人材が市場にほとんどいない」

 また、運よくデータのスペシャリスト人材を採用できても、次のような壁にぶつかるケースも少なくない。

 「現場の各部署が非協力的でデータが集まらない」「DX推進担当者に裁量権が与えられておらず、新たな提案をしてもトップが判断できず、前に進まない」

 ◇「取りあえず」は×

 このようにDX人材が「この会社の変革に貢献したい」と入社しても、ハシゴを外されてしまうケースが見られるのだ。「DX推進室」を「取りあえず作ってみた」では前に進まない。経営・人事・現場が全社一貫で取り組んでこそ、DXによる変革は実現するといえるだろう。

 次回は、DX人材の確保・育成がうまくいっている会社の事例を紹介する。それらの会社に共通する成功のカギとして、「7つのステップ」「3つの“ル”」についてお話しする。

◆用語解説

 ◆DX(デジタルトランスフォーメーション) 経済産業省による定義は以下の通り。「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」。同省では22年9月、企業のDXに関する自主的取り組みを促すため、デジタル技術による社会変革を踏まえた経営ビジョンの策定・公表といった経営者に求められる対応を「デジタルガバナンス・コード」として取りまとめた。

電気新聞2023年5月22日