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課題解決に向けた顧客とのワークアウトの様子
課題解決に向けた顧客とのワークアウトの様子

 前回、GEの産業向けIoTプラットフォームPredixでのマイクロサービス・アーキテクチャーとインタラクティブ開発環境について取り上げたが、今回は送配電分野において、電力会社とGEが共同で、電力会社に蓄積される膨大なデータを活用した新たなサービスを開発している米国エクセロンの事例を紹介する。
 

Predixの産業向けIoTアプリによるサービス開発を2017年から開始


 
 エクセロンは、米国東海岸6州とワシントンD.C.地区に、電力では約1000万件の顧客を有する米国最大の電力・ガス会社である。欧米でも送配電会社においては、プロシューマーの出現でデマンドレスポンス(DR)など新たなビジネススキームが創出され、多くの分散型電源が送配電網に接続することなどにより、送配電網の安定性、信頼性や経済性の観点から設備運用面での新たな課題が表出している。

 その一方で、特にエクセロンのような大規模事業者では、過去から蓄積され、日々増え続ける膨大かつ多岐に亘るデータを課題解決にもっと活用できるのではないかという問題意識が高まっている。

 エクセロンとGEでは、Predix産業向けIoTアプリケーションを活用し、経営課題に沿って効率的に種々のデータ分析を行い、実際に現場で運用する人に分かりやすくその結果を提供し活用することができる新たなサービス開発を2017年より始めた。
 

課題解決へ向け立ち上げた5つのプロジェクト


 
 エクセロンとGEでは、まず、今後3年で解決したい課題であるグリッドの運用効率改善、停電時間の低減、メンテナンス手法の改善に対して、必要なデータと分析方法からどのようなアプローチが有効かをインタラクティブに検討した。その結果、下記の5つのプロジェクトを立ち上げた。

 (1)系統の接続性分析
 スマートメーターの出現により、特に低圧の配電系統のモニタリング機能は飛躍的に向上している。これらのデータを分析することにより、もし、系統情報や現状図面に誤りがある可能性があれば、GIS上で現場作業者に分析結果を提供して現地を確認してもらい、その場で簡単にマスターデータを更新できる仕組みを構築する。膨大な設備を有し、顧客の出入りも激しい大手電力において、全ての図面を完璧に正確に維持することは容易ではないが、データからその正確性の分析を行うとともに、修正までを簡単に行えるツールの提供を行うことで、あらゆる分析の基礎となる系統データを常に最新に保つのが目的である。

 (2)設備の健全性分析
 近年、送配電機器へのオンラインモニタリングの適用が進んできている。リアルタイムのデータと、これまで蓄積されたデータを組み合わせることにより、より正確な設備寿命を把握するとともに、個々の設備の系統に与えるリスクも加味することでミニマムコストを実現する保全計画へ反映することができる。

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Predixでの分析結果をGIS上に表示し、可視化する(プロトタイプ画面)

 (3)停電リスクの特定
 電力会社では、膨大な過去の停電に関するデータを有している。これに、気象、設備健全性、設備周りの植生などの、よりリアルタイムに近いデータを組み合わせて分析することにより、停電リスクがある場所を特定し、事前対策の立案に役立てる。

 (4)自然災害復旧最適化
 米国でも自然災害、とりわけハリケーンなどの突発災害への対応が喫緊の課題である。データ分析により事前に被害予想を行うことで、人員・機材確保計画策定、現場作業員の事前配置の最適化や作業指示の効率化を行う。

 (5)停電情報の分析整理
 現状の変化しつつあるグリッド環境においては、様々なデータをGIS上で可視化、統計化し、新たなリスクの特定から解決に至るPDCAのサイクルを確立することが重要である。
 

これまでの経験、知見から新しい価値を生み出す流れ。欧米、アジアで


 
 送配電分野では、発電分野とは違い、扱っている機器に静止機器が多いため、データ活用、分析に関して独自のアプローチを志向してきた。これまでの深く幅広い電力会社の経験、知見から新しい価値を生み出すサービス、ビジネスを創出し、外販していくという方向性は、欧米、アジアの大手電力では本流となりつつある。電力会社から、各々の強みを生かして開発した種々のマイクロサービス、アプリの発信が行われ、相互に利用し合うのは遠い未来の話ではなさそうである。
 
 
【用語解説】
◆GIS:地理情報システム(Geographic Information System)
地理的位置を手掛かりに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術。電気、ガス、水道など面的に広範にわたる設備情報の高度な管理への利用が期待される。

電気新聞2018年4月16日
 

(全5回)