<三菱重工の原子力事業構成の変化>
◆東日本大震災後、PWRが再稼働先行/BWR、サイクル関連拡大
三菱重工業が原子力事業の多角化を進めている。2011年度の原子力事業売上高では、加圧水型軽水炉(PWR)の「アフターサービス」と「震災対応」の合計が全体の約8割を占めたが、23年度見通しでは5割程度に減少した。一方、再稼働支援の「沸騰水型軽水炉(BWR)」の比率は11年度比7倍の14%、「核燃料サイクルと機器輸出」は同2倍の36%に高まった。この間に進めた事業多角化が奏功し、東日本大震災後に2千億円を下回る年もあった売上高が3千億円台に回復してきた。(匂坂圭佑)
三菱重工の原子力事業売上高は17年度から右肩上がりで伸び、21年度には3152億円を記録した。22年度は3千億円をわずかに下回ったものの、23年度に再び3千億円台を目指す。
◇変わる事業環境
三菱重工は国内のPWR24基を全て納入してきた実績を持つ。PWRは、2011年3月に起きた東京電力福島第一原子力発電所事故後、BWRに先行して再稼働が進んだ。こうした流れを受けて、震災3年後の14年度には売上高のうち「PWR震災対応」が59%を占めた。
事故後に定められた新規制基準で設置が求められる特定重大事故等対処施設(特重施設)は、PWRの全案件で受注もしくは受注確定済みだ。特重施設の建設費は1件あたり数百億~1千億円に上る。
BWR向け特重施設も、東北電力女川原子力発電所2号機を受注した。受注済みや受注計画に織り込む案件は4件を数える。再稼働に向け対応を進める後続のBWRプラントでも三菱重工への発注を前提とした概念設計を受注した案件がある。
PWRでの実績を踏まえ、BWRの再稼働支援で「要請が多数到来」(三菱重工)している状況だ。新規制基準への許認可支援だけでなく、配管や機器の耐震補強や電源設備の増設、火災・津波などの対策といった工事も手掛ける。
再稼働が先行したPWR12基の工事は一巡した。三菱重工は、残る北海道電力泊発電所1~3号機と、日本原子力発電敦賀発電所2号機の再稼働を20年代後半と見込み事業を進める。24年度以降はBWRの工事が増えると想定し、経営資源をシフトして事業規模を拡大する方針。PWRとBWRを合わせた工事の需要は30年代前半まで続くと想定する。
◇需要の波見据え
核燃料サイクル事業では、日本原燃の使用済み燃料再処理工場(青森県六ケ所村)とMOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料加工工場の工事が佳境を迎える。両工場とも24年度の竣工を予定し、「21年から工事のピークが続いている」(三菱重工)。
三菱重工は主幹会社として参画している。再処理工場の運用が本格化するまで、中間貯蔵施設であるキャスクの需要を取り込む。四国電力から15基のキャスクを受注して製造中だ。
輸出も好調だ。取り換え工事向けの蒸気発生器9基や、54基の配管取り換え工事を受注した。英国ヒンクリー・ポイントC原子力発電所向けポンプも製作中。欧州で28基の新設計画が進む中、三菱重工の加藤顕彦常務執行役員・原子力セグメント長は「フランス国内の生産能力で対応しきれない案件の獲得を期待している」と話す。
インドでは原子炉容器などの受注も狙う。フランスとインドは欧州加圧水型炉(EPR)の新設計画を進める。フランス国内で多数の新設計画が進む中、三菱重工への発注を期待する。
三菱重工は原子力事業の多角化を進めることで、分野ごとに異なる需要の波を吸収しつつ、柔軟に経営資源を配分できる体制構築につなげる。事業規模を維持・拡大して「30年代前半の新設プラント建設につなげていく」(三菱重工)構えだ。
電気新聞2023年6月27日
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