技術開発に取り組む両社のメンバー

<急な変化つかむ糸口に/栗原氏>

 ――計測結果の検証にこだわった背景は。
 栗原 実験室レベルで様々なセンサーを検証する中で、値に差が出てしまうものもありました。その差を認識して使う選択肢もあるのですが、従来手法の数字と並べたときに、お客さまが理解しにくい。その点、正確な数字を出せるセンサーは非常に有益、有効と考えています。

 ――「常時」の監視による新たな可能性もありますね。
 荒井 従来の年1回絶縁油サンプルを採取して分析するというのは、人間でいえば年1回の健康診断に当たります。一方、常時監視になると24時間常に血圧や脈拍などのバイタルを見続けるのにイメージが近いと思います。

<安定供給で顧客に利点/出井氏>

 ――なるほど。人でいうと血液の成分など正確な数字を出すのがヴァイサラの役割で、それを基に病気などを判断する医師の役割を東光高岳が担うと。
 栗原 そうですね。通常、間欠的な健康診断だと何か異常が起きて初めて分かりますが、常時監視ならより早く気づける可能性があります。内部で異常が発生した際に生じる油中溶存ガスの生成傾向のセンシングによって異常を早期に見つけるだけでなく、一酸化炭素(CO)や二酸化炭素(CO2)、フルフラールといった成分を定期的に把握する従来の手法に対して、油温変動に対する油中水分の変化を常に把握することで、変圧器寿命を左右する巻き線絶縁紙の劣化の様子を捉えようとしています。例えば一定期間、負荷が高まり変圧器の温度が上がるようなことがあれば劣化は進みます。こうした急な変化は従来のやり方ではつかめませんでしたが、常時監視により見えてくる可能性があります。
 出井 一時的でも変圧器が停止し電気を使えないことが死活問題になるようなお客さまにはかなりメリットになると思います。

 ――再生可能エネルギー普及で変圧器の使われ方も変わってきていると思いますが、劣化の仕方も変わってくるのでしょうか。
 栗原 現在は顕在化していないと考えています。ただ、何か影響があったとしても変圧器はなかなか壊れないので長期に見ていく必要があります。常時監視によってつかみやすくなるはずですので、我々も慎重に検証したい。
 荒井 いろんな形でOPT100を駆使してデータを取り、それが機器に及ぼす影響を追究して頂けるのはありがたい。我々は計測技術のプロフェッショナルとして正確な計測値を提供しますが、それだけだと「モノ売り」にとどまります。東光高岳の皆さまにパートナーとなって頂くことで、よりエンドユーザーに貢献する「コト売り」につなげられると考えています。

 ――今後、両社の製品をセットで顧客に納入することも。
 栗原 様々な箇所の経年劣化した変圧器にOPT100を取り付けて、劣化との相関を調べる検証も進めているのですが「すごく良いので新設するときはぜひ付けたい」と言ってくださることもあります。今後、そういったケースも出てくるかなと思います。

<導入先と協奏で進歩へ/荒井氏>

 ――変圧器メーカーとしては、リプレースの提案にもつながりそうです。
 栗原 大型設備のため、納入にはどうしてもリードタイムがかかります。お客さまも予算執行などの対応が必要です。この技術によって設備更新や投資を計画的に進められるようになると考えています。お客さまに満足度高く変圧器を使って頂けるのが最大のメリットです。
 荒井 当社としてもエンドユーザーの役に立てることは光栄です。デジタル変電所やスマート保全が一般化する時代は近づいていると思います。そこに常時監視のニーズがあり、送配電から一般産業のお客さままで市場を広げられる可能性はあると考えております。ヴァイサラは今年、日本法人設立40周年を迎えます。長期にわたり日本の産業界をサポートしてきた計測技術が、東光高岳のような導入先の企業の技術と協奏をなして、新たな進歩につながることを目標にしています。(敬称略)