◆国外から労働力確保急ぐ

 再生可能エネルギー導入の野心的目標を掲げるドイツで、現場工事を担う熟練職人の不足が問題となっている。独経済研究所(DIW)は太陽光・風力分野で、2021年下期に約21万6千人の職人が追加的に必要だったと報告。他分野の職人で穴埋めする状況が続いている。連邦政府は移民法などを整備することで国外からの労働力確保を加速。再エネ急拡大に向けたボトルネックの一つとなっている人材不足の解消を目指す。(近藤圭一)

 ◇慢性化の見通し

 ドイツ連邦統計局のデータによると、22年の国内年間平均就業者数は4556万9千人。1990年以降では最多だったが、今後は55~70年生まれのベビーブーム世代が退き、慢性的な人材不足に陥る見通しだ。

 ドイツ商工会議所(DIHK)が2023年1月に国内企業2万2千社を対象に行った調査では、半数の企業が職人の必要数を補充できていないと回答した。合計で約200万人が欠員になっていると報告し、1千億ユーロに相当する付加価値の可能性を逸失していると指摘した。

 ◇大学目指す傾向

 こうした問題は職業訓練生の減少が影響している。ドイツの教育制度では、初等教育を終える12歳頃に生徒が大学を目指すか、職人を目指すか、自らの進路を決める。職人を目指す生徒は職業訓練校などに進学。職業訓練校で週1、2日教育を受けつつ、各企業の現場で週3、4日実践的な訓練を受ける場合が多い。

 だが近年、ドイツの若者は大学を目指す傾向が強く職業訓練生自体の数が減少。連邦職業訓練所によると、10年は151万人を数えていたが、20年は121万人だった。

 ドイツは電力消費量における再エネの割合を、30年までに80%以上へ高める目標を掲げる。太陽光2億1500万キロワット(22年実績6700万キロワット)、陸上風力1億1500万キロワット(同5800万キロワット)、洋上風力3千万キロワット(同800万キロワット)といずれも野心的で、達成するには工事を担う職人を十分に確保する必要がある。

 ハベック経済・気候保護相は就任直後の22年1月、「深刻な労働力不足が生産性を低下させ、エネルギー転換の遂行を困難にする」と懸念を示した。それを踏まえて22年10月には、ワーク・ライフ・バランスの改善や退職年齢の柔軟化、移民受け入れ促進などの戦略を発表していた。

 移民を巡っては、高技能移民法案が今年夏に施行される見通しだ。カナダの移民制度にならってポイント制を導入する見込み。学位や資格、語学力などに応じてポイントを付与する仕組みだ。一定のポイント数を超えれば、最長1年間の滞在資格を与える。ドイツ国内に居住しながら就職先を探すことができるため、外国人労働者の就業機会増大が期待される。

 ドイツは労働力不足が再エネ拡大のボトルネックの一つとなっている。海外電力調査会調査第一部欧州グループの藤原茉里加研究員は「人材不足はドイツ以外の欧州各国も直面しており、移民受け入れは国際競争だ」と指摘。移民から“選ばれる国”になるための魅力向上が重要と指摘する。

電気新聞2023年6月5日