特徴的な原子炉上部。この下にある燃料集合体の構成は熱出力10万キロワットの「MK―Ⅳ」炉心に変更される

 日本原子力研究開発機構の高速実験炉「常陽」(茨城県大洗町)では燃料・材料照射をはじめ、高レベル放射性廃棄物の減容・有害度低減、医療用放射性同位体(RI)製造、高速炉技術の高度化といった多様な研究が行われてきた。2007年から運転停止が続くが原子力規制委員会は今年5月、新規制基準適合に関する原子炉設置変更許可の審査書案を了承。原子力機構が目標とする24年度末までの運転再開に向けて前進した。(山内翼)

 常陽は高速増殖炉原型炉「もんじゅ」と同じく冷却材にナトリウムが使われる。発電設備はなく、得られた熱は大気中に放出される。1977年に初臨界してからの積算運転時間は約7万1千時間。試験用集合体の照射実績も101体に上る。

 政府のグリーン成長戦略で、24年度以降の高速炉技術開発の絞り込み・重点化には「常陽での照射試験による検証が不可欠」とされた。政府が昨年12月に改訂した高速炉の戦略ロードマップでも、常陽の照射試験能力を維持することは「原子力機構が優先して取り組むべき課題」と書かれている。

 「西側諸国の高速中性子照射場は常陽しかない」。大洗研究所高速実験炉部の高松操次長は、その価値をアピールする。アメリシウムなどマイナーアクチノイド(MA)の照射試験は、通常の軽水炉ではできない。高速中性子を飛ばせる常陽なら可能だ。

 常陽の運転にはMOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料を用いる。MOX燃料に高速中性子を照射してプルトニウムの燃焼度、燃料組成の変化などのデータを取得。高速実証炉の開発に役立てる。世界的に希少な医療用RI「アクチニウム225」も製造でき、先進がん治療への貢献が期待される。

2次主冷却系の配管周辺に設けられている支持装置。耐震補強対策のため、このような支持装置が追加される
 

◇実験希望が続々と

 「審査書案の了承後、国内外から照射試験を希望する問い合わせを受けている」。原子力機構大洗研究所高速炉サイクル研究開発センター高速実験炉部高速炉照射課の山本雅也課長は、運転再開に向けた期待の高まりを感じている。

 常陽は運転開始から2度、高経年化に関する定期的な技術評価を実施。保安規定に基づき高経年化対策を講じている。燃料崩壊熱を空気循環で冷却できることは、「水で冷やし続けないといけない軽水炉に比べて安全上優れている点」(山本課長)だ。

 停止期間の長期化による運転員の経験不足が気になるが、高松次長はその懸念を否定する。「運転員はシミュレーターで四六時中訓練している。ベテランの運転経験者もまだ多い。油断してはいけないが力量に問題があるとは考えていない」

 設置変更許可の正式決定後、原子力機構は設計・工事計画認可(設工認)申請を2分割で提出し、審査に臨む考え。「工事の物量が多いのは耐震補強と火災関係」(高松次長)だという。

 BDBA(多量の放射性物質などを放出する事故)対応のような、新設の安全対策工事には、茨城県や大洗町の事前了解が必要となる。山本課長は、「まだ設置変更許可が決まったわけではない。規制対応で必要なことがあれば、しっかり考えたい」と気を引き締める。

電気新聞2023年6月21日