夏にも燃料製造を再開する見通しの熊取事業所

◆技術維持へ海外派遣も

 原子燃料工業(横浜市、伊藤義章社長)が夏にも操業を再開する。加圧水型軽水炉(PWR)向け燃料を製造する熊取事業所(大阪府熊取町)で、新規制基準に対応した工事が終盤を迎えている。工場の操業は2018年11月以来、約5年ぶりとなる。操業が停止している間は、海外に人材を派遣したり部品メーカーに少量発注したりして技術力の維持に努めてきた。伊藤卓也取締役・常務執行役員は「一刻も早く操業を再開し、我が国のエネルギー安定確保に貢献する原燃工の責務を果たしたい」と意気込む。

 熊取事業所が操業を再開すれば、先に操業開始に至った三菱原子燃料と合わせてPWRの原子燃料メーカーが2社体制になり、日本のエネルギーセキュリティー向上につながる。

 原燃工は、PWRと沸騰水型軽水炉(BWR)の両方の燃料を製造できる国内唯一の企業だ。東日本大震災後の再稼働でPWRが先行した状況を踏まえ、原燃工は熊取事業所の新規制基準対応に経営資源を集中させた。BWR向け燃料を製造する東海事業所(茨城県東海村)の人員も熊取事業所の規制対応に充てた。

 事業変更許可と設計・工事計画認可(設工認)にそれぞれ4年、計8年を要した。「時間がかかり操業できない期間が長くなる中で、技術力の維持は最も苦労した」(伊藤取締役)。10年頃のピーク時には社員が約800人いたが、約590人に減少した。そうした状況でも技術力を落とさないように対策を講じてきた。

 一つは、仏オラノ社に人員を派遣し、MOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料の製造を経験。メロックス工場で原燃工が設計した燃料を製造し、日本の発電所に納めた。

 そのほか、手順書の整備や研修など地道な取り組みを重ねた。部品メーカーに少量ながら発注して、サプライチェーンの消失を防いだ。製造設備の維持管理では、新規制基準対応工事の合間を縫いながら保守を行い、操業再開に備えた。

 原燃工は高品質を最大の強みにしてきた。18年度末までに累計でPWRに約1万体、BWRに約1万8600体の燃料を納めた実績を持ち、製造が原因で燃料が破損した事例は過去にない。高品質を実現したのは、検査員による丁寧で緻密な点検だ。

 約4メートルの燃料棒に400個弱を入れる円筒状のペレットは、直径約1センチメートル、高さ約1センチメートルと小さいが、一個ずつ検査。ペレットを燃料棒に封入して燃料集合体に組み立てるまでにも、様々な検査を実施する。伊藤取締役は「一個一個、確実に検査して出荷することの積み重ね」と安全、安定操業への決意を語る。

電気新聞2023年6月23日