東芝グループが設備機器を納めたベネズエラの揚水発電所

 揚水発電所が世界でじわりと増えている。水力発電の業界団体、メーカーは、2050年のカーボンニュートラル社会に向けて、揚水が増加するとの見立てで一致する。太陽光や風力といった出力変動型再生可能エネルギーが普及する中、調整力として揚水の評価が高まっている。

 国際エネルギー機関(IEA)は、50年カーボンニュートラルの達成には揚水を含む水力発電の設備容量を同年まで年率2.4%で伸ばす必要があると指摘する。

 東芝エネルギーシステムズ(東芝ESS)の大池正一郎・パワーシステム事業部水力事業統括上席部長は「揚水に限ればそれ以上に伸びるだろう」と予測。「揚水は長い歴史で技術が確立されており、大容量で長寿命な点からもニーズが高まっている」と理由を説明する。

 国際水力発電協会(IHA)によると、揚水は22年までに1億7500万キロワット導入された。30年には22年比約1.4倍の2億4千万キロワットまで伸びると予測する。

 至近では21年に470万キロワット、22年に1050万キロワットが新設されたとしている。また、21年時点では100件以上の新設計画があると報告した。

 新規開発の適地が限られる日本では急拡大を見込みにくいが、世界には開発余地が残されている。東芝ESSは、中国を中心にインドや東南アジア、オセアニア、欧州で導入が進むと予測する。

 中でも、中国は揚水を積極的に推進している国の一つ。国家能源局が21年に発表した計画では、揚水出力を30年に2億キロワットまで引き上げるとした。20年比の6倍超に当たる規模だ。23年には河北省で世界最大となる360万キロワットの揚水の完成が控える。吉林省では千万キロワット級揚水の開発計画も立ち上がった。

 一方、欧州でも揚水の新設や更新の計画が広がる。米ゼネラル・エレクトリック(GE)は4、5月にスペインとポーランドで受注したと相次いで発表し、業界関係者の注目を集めた。

 揚水は従来、原子力発電所の夜間電力を有効活用する目的で開発が進んだ。

 近年は再エネの調整力として、発電時だけでなく、揚水運転による下げ調整力としての役割が期待されている。

電気新聞2023年6月12日