三菱電機のポキポキモータ。鉄心を広げ、内側のコイル部分を外側に展開できるため巻き線しやすい

 ◆技術革新のDNAを受け継ぐ

 電気学会(会長=勝野哲・中部電力会長)は、社会生活に貢献した電気技術をたたえる「でんきの礎」を毎年選定している。今年は三菱電機の「ポキポキモータ」など3件が選ばれた。ポキポキモータは名称こそ素朴だが、モーター出力に直結するコイルの巻き線作業に革命をもたらし、今も三菱電機の各種製品に搭載されている。受賞を機に、同社のモーター開発を手掛けるコンポーネント製造技術センター(兵庫県尼崎市)を訪ね、開発秘話を聞いた。(成田茉由)

 鉄心にコイルを巻き、電流を流すことで発生させた磁界が、磁石と引き合ったり反発する仕組みを利用して回転力を生み出す。これがモーターの基本原理だ。

 従来のモーターは、円筒状の鉄心の内側からコイルを巻いて製作していた。ただ、鉄心内側での巻き線作業は難易度が高く、生産効率を上げづらい。モーター出力に直結する「巻き線密度」を高めることも難しかった。

 ◇開発の背景

 1993年に開発されたポキポキモータは、ブロックごとに分割した鉄心を一部連結する画期的な構造を採用した。分割した鉄心を外側に広げて巻き線作業をした後、「ポキポキ」と折り曲げ円筒状に戻す。従来製品と比べて、巻き線作業が格段にやりやすくなった。高速・高密度で巻き線できるため、生産効率向上や製品の小型化に貢献。革新的な技術として注目を集めた。

 開発のきっかけは、当時の分厚いパソコンを薄型にするニーズに応えようとしたこと。薄型にするにはディスクドライブを駆動するモーターの小型化が求められた。同社の技術者が試行錯誤の末にたどり着いた独特な構造に、様々な専門家から驚きの声が寄せられたという。

 モーターを製造する装置も自社で一から手掛けた。苦心しつつも製造技術を内製したことで、三菱電機の独自技術として地位を固めることにつながった。実際には折り曲げる際に「ポキポキ」という音はしないが、開発者は親しみを込めて「ポキポキモータ」と命名した。

 ◇発想は今も

 ポキポキモータは、現在も三菱電機製の家庭用エアコンや、自動車のハンドル操作の負担を軽減するパワーステアリングなど各種製品に搭載されている。累計出荷数は22年度末で1億台を超えた。

 当時の開発者はすでに引退している。今回、尼崎市のコンポーネント製造技術センターで取材に対応してくれた坂上篤史マネージャー(モーター製造技術推進部回転機開発グループ)は、ポキポキモータの製造装置を自社開発した点に着目。「技術を社外に流出させず、つくりたいものを自由につくる。この発想は今も受け継いでいる」(坂上マネージャー)と話す。

 「言われたものをつくるだけでなく、製品の製造プロセスまで見越して最適なものづくりを追求する」ことが、同センターの役割だという坂上マネージャー。「今後もものづくり力のある後輩を育てていきたい」(同)。固定概念にとらわれないポキポキモータ開発のDNAは、これからも脈々と次世代に受け継がれていく。

電気新聞2023年5月23日