人間のライフスタイルや仕事のあり方を劇的に変えると期待される対話型人工知能(AI)、「チャットGPT」。企業や自治体の活用が広がる一方、インフラという社会の重要な機能を担う電力会社の業務に使用するには、まだまだ課題が多そうだ。東京電力ホールディングス(HD)では、個人情報の漏えいや情報誤認のリスクを念頭に「慎重に検討する」との姿勢を示す。
チャットGPTは文章で質問を打ち込むと、そのまま文書で回答を出す。これまではグーグルなどに代表される検索エンジンが主流だった。チャットGPTの機能性は極めて高く、スマートフォンのアプリを開発するコードを入手することもできる。
現状では得意分野と苦手分野がはっきりしているのが課題だ。公開情報をまとめるのは得意とされており、例えば「東京電力ホールディングスの業績改善に何が必要か?」との質問には、的確な回答を示した。
チャットGPTによると、東電HDの業績改善には、効率的な業務プロセスの導入や人件費の見直し、不採算事業の整理によるコスト削減、再生可能エネルギー事業の拡大、顧客のコミュニケーション強化やサービス改善による顧客満足度の向上、アジアを中心とした海外事業の拡大が必要という。
「柏崎刈羽原子力発電所の再稼働には何が必要か?」との問いには、原子力規制委員会との対話継続、自然災害への対策と運転員の訓練、地元自治体や住民団体との対話を通じた理解獲得、再稼働に伴うコストの慎重な検討を要素として挙げた。
◇なぜか芸能人が
一方、人物を特定するような単純な質問は、かえって苦手にしているようだ。東電HDの会長、社長は誰かという質問への回答は、それぞれ「春畑道哉」と「河合龍之介」だった。春畑氏はロックバンド「TUBE」のギタリスト、河合氏はミュージカル『テニスの王子様』などに出演する舞台役者のことを指しているとみられる。
回答には、いずれも「2021年9月時点で」との記載があった。東電HDの会長、社長がなぜ芸能界の人物で、さらに21年9月に何があったのか、といった理由は謎だ。
チャットGPTはGMOインターネットグループ(東京都渋谷区、熊谷正寿社長)などで活用する動きがあるが、東電HDは「活用については今後検討していく」と慎重な姿勢を示す。
事実と異なる誤った回答とともに、懸念されるのが個人情報流出だ。知らず知らずのうちにチャットGPTに個人情報を伝えてしまい、サイバー攻撃を受けた際などに情報が漏れるリスクがある。
◇リテラシー高め
電力会社は個人情報を多く抱えており、情報管理には神経質にならざるを得ない。神奈川県横須賀市はチャットGPTを全庁で活用するための実証を始めたが、対象はあくまで文章の作成、要約、校閲に絞っている。
東電HDは「個人情報漏洩リスクや誤った情報を取得するリスクがあることから、慎重に検討する必要があるものと認識している」とコメント。「今後も継続的に社内の情報リテラシー教育を行っていきたい」とした。
電気新聞2023年5月9日
>>電子版を1カ月無料でお試し!! 試読キャンペーンはこちらから