再生可能エネルギーや電気自動車の普及拡大により、これらが接続される配電系統では電圧の変動がより大きく、かつ短い間隔で発生しやすくなってきている。こうした中、電力品質の維持に向けて注目されているのが、系統に分散する需要家の「無効電力」を遠隔集中制御する手法「DERMS」だ。本連載ではこのDERMSの有用性とそのシミュレーションについて紹介する。初回は、前提となる近未来の配電系統について解説する。
局所的に逆方向へ
将来の配電系統には、天候次第で稼働状況が変わる太陽光発電といった急変電源や、超急速EV充電スタンドといった急変負荷、また電力売買に利用される蓄電池といった分散型のプロシューマー(Prosumer)が大量に導入されると予想される。これらは分散したエネルギー資源として活用され、DER(Distributed Energy Resource)と呼ばれている。
かつて配電用変電所から需要家側方向への一方通行であった電力の流れは、これら分散電源が大量導入されてくると、局所的に逆方向の電力の流れがあちこちに分刻みで発生したり消えたりするようになるだろう。その結果、配電系統の電圧が局所的に短時間で大きく変動して、場合によっては電圧許容範囲を逸脱。電力の品質が低下する問題の発生が懸念される。
図1は現状の系統電圧制御方法の一つであるSVR(Step Volttage Regulator)の運用例を示す。SVRは、トランス巻数比を切り替えて電圧を昇圧・降圧する装置だ。太陽光発電の発電量の大きな変動により配電系統電圧の一部が逸脱しそうな場合、系統の途中に設置されているSVRが設置地点で逸脱を防ぐ。
例えば晴天により発電量が急増したら電圧を引き下げ(上のグラフ)、曇天により発電量が急減したら電圧を引き上げる(下のグラフ)。このほかにも現状、変電所送出電圧のタップ切り替え、コンデンサーといった需要家力率改善機器などの方法が併用されている。ただ、いずれも1時間単位といった変動には対応できるが、今後増加が予想される分刻みなど短時間で大きな変動には対応できない。
技術革新が必要に
図2はSVRのような系統電圧制御方法では対処困難な実例だ。これは米国PG&E社のある地域配電網に定格800キロワットの電力売買蓄電池システムが導入される前(左)と導入後(右)の時間別電力需要を示したグラフだ。この蓄電池システムは広域系統需給調整市場で電力を売買している。その結果、右のグラフで分かるように数分間で数百キロワット以上の電力が順調流(充電)と逆潮流(放電)をすることとなる。数百軒分の住宅消費電力のみだった導入前(左のグラフ)と全く異なることが分かる。この配電系統内では分刻みで電圧も大きく変動しているだろう。
このように、近未来の配電系統は短時間で大きく変動するDERが起こす系統電圧分布に対処する技術革新が必要となると思われる。PG&Eでは「DERMS」と呼ばれる技術の実証を進めている。
【用語解説】
◆DER 太陽光発電や蓄電池などの分散電源、および需要家負荷は使い方によりリソースになる。
◆Prosumer(Producer and consumer) 蓄電池システムのように負荷にも供給力にもなり、リソースとして利用できるもの。
◆SVR 従来型の配電系統電圧制御機器であり、トランスのように巻線巻数比で昇圧降圧する。
◆DERMS(DER Management System) 配電系統において多数の需要家設備の無効電力を高速に遠隔集中制御する将来のITシステム。
電気新聞2023年2月20日