冷却塔などから蒸気が立ち昇る鬼首地熱発電所

 

鳴子こけしも登場

 
 Jパワー(電源開発)は3日、リプレース工事を進めていた宮城県の鬼首地熱発電所が2日に営業運転を始めたと発表した。出力は1万4900キロワット。タービン発電機の効率を高め有害な硫化水素の排出量を抑えたほか、発電用の熱水を取り出す井戸などを集約し敷地内の安全性を高めた。

 地熱発電は、火山地帯の地下千メートルなどの地下にたまる熱水を「生産井」で取り出し、蒸気でタービンを回して電気を発生させる。使った蒸気は「還元井」で地下に戻す。

 蒸気を循環利用できれば、他の再生可能エネルギー電源に比べ長期的に安定して発電が可能。設備利用率も、陸上風力が約20%、太陽光が約12%なのに対し地熱は約80%に上る。

 リプレース工事は、運開後40年以上経過した設備を今後長期的に運用するのが目的。タービン発電機とタービン棟建屋、発電に使用した蒸気を冷やす冷却塔建屋など主要設備・建物を一新した。

 それぞれ9本、8本あった生産井と還元井も埋め戻し、新しい井戸をそれぞれ5本ずつ掘削。新井戸は種類ごとにまとめる「基地型」をとって、敷地内で噴気事故が起こるリスクなどを軽減した。

地元名産の鳴子こけしをあしらったタービン発電機

 タービン発電機に地元の鳴子温泉郷の名産「鳴子こけし」をあしらった。一層地域に根ざす発電所を目指す。

 鬼首地熱は1975年に運転開始。2017年に停止し19年4月にリプレース工事を始めた。

電気新聞2023年4月4日

 

噴気災害の教訓を胸に

 
 4年にわたるリプレース工事で送電線を除く全ての設備を一新したJパワー(電源開発)の鬼首地熱発電所(宮城県大崎市、1万4900キロワット)が2日、営業運転を開始した。2010年に起こった噴気災害の教訓を踏まえ、地中温度が高く噴気が出やすい場所にあった生産井や還元井をより安全な地点で新たに掘削。所内を自動で巡視点検する四足歩行ロボットを導入するなど、スマート保安の取り組みも始めた。

 鬼首地熱の運開は1975年。経年化が進んでいた発電所で事故が起こったのは35年後の秋だった。地下の地熱活動が比較的活発な1本の生産井近くで蒸気が噴出。地鳴りとともに土石が降り注ぎ、近くにいた作業員1人の命が失われ、発電所設備もダメージを受けた。今なお忘れ得ぬ痛ましい過去だ。

 「噴気災害は我々の原点」。鬼首地熱の茅野智幸所長はこう強調する。設備更新で安全性を高めることは、発電所が立地する地元の信頼を保つこと、ひいては鬼首で長く発電事業を続けることにつながる。

 Jパワーは3日、運開した鬼首地熱を報道陣に公開した。制御棟、タービン発電機が置かれたタービン棟、地下1500メートルから熱水を取り出す5本の生産井、発電に使った蒸気を地中に戻す還元井――。各種配管を含め全ての建物・設備が真新しく光る。
 

安全確保に万全

 
 発電所員・作業員の安全を確保するための施策は随所にあった。生産井のそばには、突然蒸気が噴出した場合に備えて、コンクリート製の「コの字型」シェルターが置かれた。制御棟の窓はガラスに代わって透明なアクリル板で覆い、土石の飛散に耐えられるようにしたという。

 地中の温度を測るためのセンサーも敷地内各所に設置。地表~地下50メートルの温度を常時監視し、異常を検知した際はすぐに退避などできるようにしている。

 発電所更新のもう一つの目玉は、スマート保安技術の導入。米ボストン・ダイナミクス製の犬型巡視点検ロボット「Spot(スポット)」を利用する。全長は約1.1メートル、重さは40キログラム。小刻みに跳ねるといった様々な動作ができ、階段も昇り降りする。1回の充電で平均約90分稼働する。

発電所内を駆け回る自動巡検ロボット

 スポットは記憶した経路を自動で巡回し、頭部に内蔵した光学カメラで機器メーターの数値を読み取る。熱感知や集音機能も持つ。集めたデータはタブレットや制御棟内のコンピューターに加え、山麓の鳴子温泉にある事務所からも確認が可能。所員がいない夜間などに緊急事態が起きた際、すぐに現場の様子を把握できるようにする。

 当面は点検技術員の補助を担うが、今後使用頻度を増やしていく見込み。スポットを使って設備異常の予兆をつかめれば、トラブルや事故を事前に防ぐ効果も期待できる。
 

地元と歩む姿勢

 
 鬼首地熱は、FIT(固定価格買取制度)の認定を獲得し、今後15年間にわたって再生可能エネルギー電源として安定稼働する見通しとなった。鮮やかな「鳴子こけし」を模したタービン発電機は「地元とともに歩む姿勢を示す」(Jパワー)証し。安全性と最新技術を備えた「こけしの発電所」として、より地域に親しまれる発電所を目指す。

電気新聞2023年4月7日