仏シュナイダーエレクトリックが急成長を遂げている。低圧配電機器の製造・販売に始まり、デジタル技術を生かしたエネルギーマネジメントに経営の軸足を移し、各国の電力会社のニーズに応えてきた。時代を先取りしてきたESG(環境、社会、企業統治)経営には外部から高評価も受ける。「最もローカルなグローバル企業になる」と語る白幡晶彦日本統括代表・社長のインタビューとともに、日本市場の開拓を目指す同社を紹介する。
 

インタビュー 日本統括代表・社長 白幡 晶彦氏


最もローカルなグローバル企業に


 

白幡 晶彦氏

 --シュナイダーの歴史は。
 「1836年に設立して以来、常に変化し続けている企業だ。創業後、鉄鋼業・重工業で成長し、電気の時代の到来を予見して事業ポートフォリオを大きく変えたのが50年前になる。この10年は、電気機器からエネルギーマネジメントに軸足を移してきた。サステナビリティーやデジタルの企業に変化を遂げた」

 

電力需要増に 効率化技術で

 
 --5月にジャンパスカル・トリコワ最高経営責任者(CEO)が交代する。
 「傘下の産業用ソフトウエア部門である英アヴィバのピーター・ハーウェックCEOが後任に就任する。トリコワ氏は03年に最高執行責任者(COO)、06年にCEOに就き、当社を成長させてきた。この20年で売上高は3.9倍の342億ユーロ(約5兆円)に、純利益は8.8倍の35億ユーロに増大した。時価総額は7倍に伸びた。会社の中身が変わっただけでなく、規模の面でも急成長を遂げた」

 --変化の背景は。
 「トリコワ氏の就任と時期を同じくし、エネルギーマネジメントの会社となる構想が始まった。最初に掲げた行動指針は『ビルディング・ア・ニュー・エレクトリック・ワールド』。開閉器のメーカーから、電気の効率的な活用方法を提供する『新しい電気の世界をつくる』会社に生まれ変わろうとした。現在のサステナブル経営の原型と言える考え方だ」

 「現在掲げている『ライフ・イズ・オン』は、いつでも、どこでも、誰にでも安全でクリーンなエネルギーを届ける思いを込めた。今後20年で世界の電力需要は1.5倍に増える。電気にアクセスできる人が増え、電気自動車(EV)やデータセンターは需要を大きく伸ばす。電力需要が増えても大幅な効率化をテクノロジーで実現できれば二酸化炭素(CO2)を減らすことができ、サステナビリティーと経済成長というジレンマを両立できる」

 --「エレクトリシティー4.0」という概念を提唱している。
 「電化がトレンドとなるなか、電気を効率的に使うにはデジタルが欠かせない。当社は需要家や配電などLV(低圧)からMV(特別高圧)を主体に事業展開してきた。IoTプラットフォーム『エコストラクチャー』を構築し、スイッチギアや保護リレーなどをコネクテッドデバイスにした。センサー機能を付けて電力品質などをモニタリングする。機器の状態も分かるため、時期で決められた定期点検ではなく、機器の状態監視に基づいた予防保全が可能となる」
 

持続可能性追い 常に上位ランク

 
 --ESG経営では外部から高い評価を受けている。
 「ダボス世界経済フォーラムでカナダのコーポレート・ナイツ社が公表する持続可能な企業ランキングでは、今年7位、去年4位、一昨年1位だった。上位の顔ぶれが変わりやすいランキングで上位に入り続けられるのは、模範的な存在になろうとしてきたからだ。当社工場には常に最新技術を実装し、自ら効果を証明してきた」

 --自社排出量のカーボンニュートラルを25年までに達成する目標を掲げている。
 「25年までに工場と物流センターの150カ所をカーボンニュートラルにする目標を掲げ、すでに半数ほどで達成した。さらにその先を見据え、上位千社超のサプライヤーとCO2の半減に向けて協業している。サプライヤーにも惜しみなくノウハウを提供し、スコープ3の脱炭素を達成しようと進めている」
 

各国パートナーと 高い品質に応える

 
 --日本市場の開拓に向けた戦略は。
 「デジタルやソフトウエアで差別化していく。日本には優れたメーカーが多く、当社のソリューションはそうした他社の機器ともつながるオープンプロトコルが魅力。日本で求められる高い品質に応えるには単独では難しく、パートナーシップが前提となる。既存機器のメーカーや保有者と対話していく」

 「シュナイダーは最もローカルなグローバル企業になることを掲げている。日本事業の歴史を振り返ると、15年前に富士電機、25年前に東芝とそれぞれ合弁会社を設立し、中長期的な視点でじっくり市場と向き合ってきた。単なる販売会社ではなく、日本の要求水準に合わせた機器を開発し顧客サポートするための会社だ。電気のビジネスでは各国の基準や規格に合わせるのが鉄則だと理解している」

 「一方、グローバル企業が日本に投資する場合に、日本企業との間に入りサポートする役割も果たす。データセンターや半導体への投資は外資系が積極的だ。グローバル企業のスタンダードを損なわずに、日本の要求に合わせるビジネスも戦略的に取り組んでいる」

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