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 フィンテックはエネルギー産業での市場メカニズム浸透に伴い、取引や決済などに応用される可能性は高い。一方、金融機能のアンバンドリング同様、エネルギー産業でもフィンテックのような従来型ビジネスモデル枠外でのテクノロジー進化により、発送電分離にとどまらないビジネスモデルのアンバンドリングが起こり得る。この点では金融も電力も構造は似ており、これらは最終的に各社の経営戦略に大きな影響を及ぼすものと考えられる。
 

エネルギービジネスの「悩みの種」にフィンテック

 
 フィンテックなどのクロステック(xTech)と呼ばれるバズワードが世の中に随分と浸透してきたが、エネテックという言葉は一般的に使われる状況にまだない。確かにエネルギー産業固有の問題に対するデジタルソリューションが他産業と比較して多く現れているとは言い難い。しかし、こうした状況はエネルギー産業がデジタルテクノロジーの影響を免れていることを意味しない。

 IoT(モノのインターネット)、データアナリティクス、電気自動車(EV)などを扱う異業種では、エネルギーにもつながるテクノロジーが多数開発されており、支払・決済関連ではこうしたテクノロジーがフィンテックと結び付く例も見られる。海外では、小売り部門の電気料金支払い手段に、利息分をインセンティブとするプリペイドのスマートフォン決済を導入した事例がある。国内でも、大手電力会社の小売り部門が、ポータルサイト内でデータアナリティクスにより最適料金プランを提案するなどの動きがある。

 卸側のエネルギートレーディングでは、歴史的に金融や他のコモディティートレーディングからさまざまなテクノロジーやノウハウが援用されてきたように、基本的に金銭の受け渡しを伴う領域には金融市場で開発されたフィンテックの応用が期待できる。燃料取引、電力取引などの様々なエネルギー取引、それに伴う契約、資金決済、リスクマネジメントといった、エネルギービジネスのバリューチェーン上のペインポイント(悩みの種)に、フィンテックや他のクロステック由来のテクノロジーが応用されることは時間の問題だろう。将来的にはAO&T(アセット最適化とトレーディング)に人工知能(AI)が応用される可能性も高い。

 最近のレグテックの進化にも注目する必要がある。現時点でレグテックは金融機関における規制対応やコンプライアンス(法令順守)のコスト削減に向けたデジタルテクノロジー活用とみられている。しかし、将来的には他の産業のコンプライアンスやリスクマネジメントなどをオートメーション化する展開も期待されており、当然にしてエネルギービジネスでの活用も予想される。

フィンテックとエネルギー第2回 1
 

デジタル化がエネルギー産業の経営戦略に影響する時代に

 
 ところで、金融機能のアンバンドリングに見られたように、エネルギー産業においても要素技術的に様々なテックベンチャーが誕生する、あるいは既存のビジネスモデルと異業種の融合などによりディスラプション(Disruption)が起こるのだろうか。発送電分離後、例えば小売りにおいて調達側のアグリゲーターと販売側のリテイラーが分離するなど、レイヤー内でのさらなるアンバンドリングが進むと、地域に制約されないデジタルテクノロジーが同じサービスカテゴリーで次第に規模の経済性を追求し、広域でリバンドリングを推進するドライビングフォースになるかもしれない。経営戦略の策定において、こうしたデジタル化の影響を考慮する時代の到来もあまり遠くはない。

フィンテックとエネルギー 第2回 2
【用語解説】
◆クロステック(xTech) 
フィンテックを端緒に、最近ではある業界がデジタルトランスフォーメーションに取り組む動きを「クロステック」と総称して呼ばれることが多い。例えば、金融産業の中でも保険であればインステック、IoTに活路を見いだしつつある農業においてはアグリテックと呼ばれる。経済紙系IT情報サイトが命名したとの説がある。

◆レグテック
規制(Regulation)と技術(Technology)を合わせた造語。規制や報告の法令順守の簡素化・合理化や、従業員や顧客による不正行為防止のために、テクノロジー主導型サービスを提供する企業やその技術を指す。複雑化する金融規制対応へのコストを削減し、生産性を高めるためのレグテックは、フィンテックの基盤を支えるインフラでもある。

電気新聞2018年1月29日