「新価値(新商品、新サービス、新規事業)」を生みだすためには、「問題解決(=正解を出す)」よりも「問いを立てること(=問題を定義すること)」が重要であることを前回解説した。診断という問いが間違っていたら、いくらハイテクを使っても患者は治らないのと同じである。さらに、その問いは「これまでの常識的な解釈とは異なる新しい仮説」である必要がある。では、「問いを立てる」とはどういうことなのか、そのために取るべきなのはどういった思考法なのか、事例も含めて解説を行いたい。

 今回は、「新しい価値を生むために、問いを立てる」とはどういうことか、を議論したい。
 

「隠れた真実」を見つけ出す

 
 PayPalの創業者であり、スタンフォード大学で新価値創造を教えるピーター・ティールは、「新しい価値を生みだすには、隠れた真実を見つけなければならない」という趣旨を著書で述べている。この「隠れた真実」というのは、前回で述べた「新規性があり、かつ妥当性のある洞察」と同義である。

 我々は、この洞察のことを「リフレームされたインサイト」と呼んでいる。リフレームは、「ビジネスにおいて、それまで常識とされていた解釈やソリューションの枠組み(フレーム)を、新しい視点・発想で前向きに作り直す」という意味である。

 通常、企業における仕事の進め方はリニア思考で行われている。リニア思考とは、いわば線的な思考で、「これまでの常識の範囲で正しいとされてきたことを効率的に実施していく」考え方だ。受験勉強の中では、我々はこの「正解に早くたどり着いたら勝ち」という枠組みであるリニア思考に最適化してきた。業務において様々に起こることを「その会社の常識やルールの中で処理していく」のであればリニア思考で問題ないが、新価値創造ではリフレーム思考が求められる。
 

物事を深掘りして

 
 これまでの常識を覆す新しい説を立てようとするリフレーム思考においては、問いを立てるために物事を深堀りして考えるクリエイティブさが必要になる。

 「高齢者をターゲットとした新しいサービスを考える」というプロジェクトを実施したときに得た「リフレームされたインサイト」は、「高齢者はサービスを受けることよりも、自らが誰かにサービスを提供することを求めている」であった。高齢者の方々は、日常生活において「誰かに喜んでもらうために自分の時間やお金を使う」行動を取っている、という観察されたファクトから導き出されたものだ。

 「高齢者はお金を使ってでも誰かにサービスしたいと思っている」というのが「隠れた真実」だとすると、提供する価値はそれまでとまるっきり違うものになる。従来のように「高齢者に喜んでもらうためのサービスを考える」のではなく、「高齢者が誰かに貢献できる場をたくさん設けて、そこに参画する会費を払ってもらう」という新価値の発想が生まれるのだ。

 このように新たな価値創出には、リフレームすることのできる人材を育成し、活躍できる環境を用意する必要がある。

電気新聞2023年1月30日