東芝エネルギーシステムズ(東芝ESS)が、洋上風車の国産サプライチェーン構築を着々と進めている。まず、ナセル後部フレームと制御盤などの機器を収納する電気キャビネットの国産化を目指し、部品サプライヤーを募集。書類審査に約30社が集まった。東芝ESSと中小製造企業を仲介する企業とも協業体制を敷く方針だ。東芝ESSも自社製変圧器や開閉装置、発電機を供給できるよう、提携する米ゼネラル・エレクトリック(GE)と協議を進めている。(匂坂圭佑)
東芝ESSは、GEリニューアブル・エナジーと洋上風力で戦略的提携契約を結んでいる。京浜事業所(横浜市)で、GE製風車のナセル組み立てを計画する。GEは、政府の洋上風力公募の「第1ラウンド」を総取りした三菱商事への供給を決めており、東芝ESSと連携してサプライチェーン構築に取り組む。
東芝ESSは「第1ラウンド」向けのナセルを2026年から製造する想定で動く。ナセル向け部品は早ければ25年に製造開始する予定だ。
東芝ESSとGEは秋田県と千葉県の発電所建設地を中心に、部品製造企業を募集中だ。昨年に秋田県、今年1月末に千葉県で説明会を開き、技術条件などを提示。募集が先行する秋田県では1次審査の書類審査に約30社が応募した。2次審査と最終審査を経て正式に採用を決める。
ナセル後部フレームは鉄鋼業が製造する。ナセル内部を仕切る部品だ。電気キャビネットは開閉装置などの電気機器を収納するもので、動力部と比べると参入障壁は低い。
東芝ESSは電気キャビネット製造企業との仲介役として、ダイチューテクノロジーズ(埼玉県羽生市、佐々木義弘社長)と協業を検討している。同社は電気設備や制御盤などの受託製造実績が多数あり、海外経験も豊富で英語の技術文書や契約でサポートが期待できると東芝ESSは評価する。秋田県湯沢市に新会社を設立し、東芝ESSの下請けとして2次請けの製造企業を取りまとめる。
目標「40年6割」前倒しへ
産業界は政府との協議会で、洋上風車のサプライチェーンで国内調達比率を40年までに60%に高めると宣言した。風車本体に加え、運転・保守や建設工事も含む。この目標に対し、東芝ESSの島田雄二・エネルギーアグリゲーション事業部再生可能エネルギー事業統括上席部長は「ナセルの組み立てだけでも10%程度となり、電気キャビネットとフレームでプラスアルファになる」と説明する。
その上で「40年60%」という目標を「できるだけ前倒ししたい」と意気込む。足元で輸送費が高騰し、為替のボラティリティーが高まる中、国産化の意義は高まっている。
数え方によるが、ナセルは1万点以上の部品で構成される。東芝ESSは自ら部品供給も目指す。変圧器と開閉装置のほか、制御システムを開発中だ。公募が始まった洋上風力の「第2ラウンド」以降での導入となる見通し。発電機の自社製造も視野に入れる。「国産化を大きく進めるため動力部(の部品開発)を検討するが、足の長い取り組みになる」(島田氏)。GEも軸受けのベアリングや発電機の磁石、タワーの鋼材などで日本企業の採用を検討している。
東芝ESSはナセルを組み立てる京浜事業所の整備を進める。既存のタービン工場建屋を生かしつつシャッターを大きくし、高さと幅がそれぞれ約10メートルの巨大ナセルを運び出す。ナセルと発電機、ハブを接続するための治具も工場に導入する。700トン以上の重量物となるナセルを持ち上げる設備だ。
GEの風車大型化にも備える。GEは次世代機の出力を上げても工場設備を大きく変更せず製造できるようにプラットフォームを構築している。現行機種は最大1万4700キロワットだが、京浜事業所では2万キロワット程度まで対応できるとしている。
風車の保守にも力を入れる方針だ。発電所の地元企業と連携し、稼働率の向上に貢献する。「20年間にわたる保守サービスは風車販売の収入と同じくらい」(島田氏)のためメーカーの関心は高い。
電気新聞2023年1月13日