災害時は供給継続、平常時は収益創出

 
 中部電力は長野県飯田市で、2024年度に既存の配電系統を活用したマイクログリッドの運用開始を目指している。災害などによる大規模停電時には自立運用し、太陽光発電設備や蓄電池を使って電力供給を継続。地域のレジリエンス(強靱性)向上に寄与する。エネルギー管理システム(EMS)を自社開発し、平常時は電力市場での収益確保や系統の混雑緩和への貢献も想定するなど、新たな価値の提供も視野に入れている。

マイクログリッド

 事業を行うのは飯田市川路地区。中部電力の「メガソーラーいいだ」(千キロワット)が立地し、災害時に避難施設となる小学校などもある。同市は過去にたびたび土砂崩れや洪水で大きな被害を経験したこともあり、前向きな協力が得られた。今回6カ所の避難施設に加え、低圧70件程度を含む300キロワット規模の需要が対象となる。

 非常時は今回新たに導入する蓄電システムが電圧や周波数を自端で調整し、自立運転を行う。EMSが気象情報に基づいて発電・需要予測から充電量をシミュレート。必要に応じて発電や需要の抑制を指示し、自立運転時間を最大化する。

 レジリエンス向上や脱炭素化に貢献する一方、事業として成り立たせるには一定の収益も必要だ。そこで平常時は卸電力市場での売電や需給調整市場、容量市場を通じた調整力・供給力の提供を想定。EMSはこれらを組み合わせ、収益を最大化する役割も担う。

 EMSでは中部電力パワーグリッド(PG)からの潮流調整指示も考慮する。外部系統との連系点で潮流を制御し、再生可能エネルギーの大量導入に伴い課題となる「系統混雑」の緩和にも貢献していく。

 マイクログリッドを実際の配電系統へ実装するため、中部電力は電力中央研究所赤城試験センター(前橋市)で試験を実施。蓄電池を持ち込み、故障時や系統が停電した状態から起動する「ブラックスタート」の試験などを行った。

 今後、EMSの設計・開発や蓄電池の設置工事などを進め、24年度に試運用を開始したい考え。数年かけた試運用で想定通りの運用が可能か確認した後、実運用の段階に入る。

 今回の事業は環境省が募集する「脱炭素先行地域」に飯田市と共同で提案し、昨年11月に選定された。レジリエンス向上や再エネの地産地消、系統の混雑緩和など、新たな価値を生むモデル事例として注目されそうだ。

電気新聞2023年1月5日