本音は「5割程度まで上げて…」

 
 11月までに大手電力5社が規制料金値上げを申請したものの、新電力の顔色はさえない。規制料金よりも割安な料金プランを提示できずにいた新電力は、足元の燃料価格を反映した規制料金に見直されることで競争環境が戻ってくると期待していた。しかし、実際の値上げ幅は「小幅」に映った様子。ある新電力は「本音では5割程度まで値上げしてほしかった」と話す。(旭泰世)
 

調達費かさみ、新規顧客狙えず

 
 これまで新電力は、大手電力が提供する規制料金よりも安い料金プランを需要家に提示し、新規顧客を獲得してきた。ただ、ロシアによるウクライナ侵攻などをきっかけに、燃料価格が急騰。それに伴い卸電力市場価格が上がり、電力調達費用がかさんだ。

 もちろん燃料費調整で一定程度の価格転嫁はされていたものの、昨年度までは燃調に上限が設定されていた企業が多かった。今年度に入ってからは各社、燃調上限を撤廃し、燃料費が高騰した影響を価格に上乗せしていた。

 一方で、大手電力の規制料金は改定に国の審査が必要なため、燃調の上限撤廃も上限引き上げもされてこなかった。そのため新電力は、多くの需要家がベンチマークとする規制料金よりも安い料金プランを提示することが実質的に不可能になっていた。新規顧客を積極的に狙える企業はほぼなく、電力自由化は停滞。新電力側は早期の規制料金値上げを期待していた。

 そして今回、新電力が待ち望んでいた値上げ申請。だが、ふたを開ければ期待していたほどの上げ幅ではなかった。ある新電力社員は「需要家からみれば3割程度の値上げでも大きいが、事業者目線では少ない」と語る。
 

燃料費調整の上限撤廃より低く

 
 特に、中国電力や沖縄電力は、現行料金に足元の燃調の上限超過分を加えた額よりも申請料金が低く抑えられており、「燃調の上限を撤廃した場合よりも低い水準の値上げでは勝負にならない」という。新電力の多くはこれまで卸電力市場に頼っていたが、市場価格の高騰は続き調達先として使いにくくなっている。相対取引での仕入れも含め、販売すべき電気の調達環境は厳しい。

 規制料金の値上げ実施時期は来年4月が見込まれているが、来年度からは競争環境が戻ってくるのか。別の新電力関係者は「新電力各社は4月に向けて料金改定を進めていく雰囲気になる」と話す。

 ただ、規制料金の値上げが小幅に収まって、卸電力市場価格も2020年の水準まで下がるかどうかは見通せない。この新電力関係者は「電力小売事業に参入するメリット自体が薄くなっているため、そのまま撤退する企業もあるだろう」と推測する。

 4月の料金改定に向けては「2月頃までに新料金を公表する必要がある」(別の新電力幹部)。規制料金の審査結果を待たずに新たな料金プランの検討を迅速に進めていく必要がある。

 経済産業省・資源エネルギー庁では、規制料金の廃止を念頭に、新たな規制的メニュー(低圧最終保障に相当)の議論も出ている。競争環境が完全に戻ってくるには、規制料金値上げだけでなく、卸電力市場の価格低下や規制料金そのものの見直しが必要になりそうだ。

電気新聞2022年12月2日