前回、これまで135年間地理的にほとんど移動しなかった電力需要に、電気自動車(EV)という地理的に移動する需要が加わり、EVによるサービスも多様化していくだろうことを示した。今回は、多様化の一例として、「再エネでEVを充電するにはどうすればよいか」という問いについて考えながら、需要家と電力システムの立場、双方から考えてみたい。猛暑の中でEVのV2Hを使ってエアコンを使用したささやかな体験も報告する。
 

仮想Yさんの場合

 
 私は気候変動対策やデマンドレスポンスに興味があり、それをベースにEV充電の研究をしている。そのため、再生可能エネルギーでEVを充電したいのだが、これがなかなか単純ではない。ここでは、市街地に住み、自分のEVを再エネ100%で充電したい会社員Yさんを仮想して、その苦悩を見てみよう。

 太陽光発電(PV)や風力発電だけ(必要なら蓄電池も)がEV充電器につながっているシステムは分かりやすいし、既に実証試験も始まっている。しかし、このような設備を作ることは、人口密度の高い市街地などでは難しいのが現実だ。

 次に考えられるのは、自宅で再エネ100%の電力メニューを契約して、自宅で充電することである。これだと、Yさんは再エネ100%で充電しているように見えるため満足感もある。環境省のEV補助金を受ける際の「再エネ100%電力調達要件」にも合う。しかし、夕方・夜間に行われることが多い帰宅後の充電は、PV出力が少ないため火力発電のたき増しにつながるという問題もある。

 電力システム側から見ると、PV発電が多い昼間に勤務地や出先で充電してもらうことが望ましいのだが、Yさんから見ると自宅以外での充電は再エネ100%には見えづらい。出先の充電に関しては現在パブリックな充電スタンドは地理的な偏在があるようで、普通に充電できるスタンドが少ない地域もある。いわんや再エネ100%電力によるスタンドを近隣で見つけるのはほぼ不可能だろう。


 そこで、私は移動先でのEV充電などの費用をその需要家が契約する電力使用に合算することを考えた。この方法なら、自分の選んだ再エネ100%電力をどこでも自身のEVに充電できる。このサービスでは、図1のような請求書がイメージできる。
 

PoU概念を提唱

 
 私は、今後の電力サービスに関する概念として、Place of Use (PoU)を提唱している。電力の世界では長年Time of Use(ToU、時間帯別料金)が使われてきたため、PoUは今後EVなど移動する電力需要への新しいサービスの考え方を示すものとして分かりやすいと思う。先の例は個人を対象にした例だが、RE100に参加する企業がEVを再エネで充電したいときにも、PoUは役立つと考えている。

 話を戻そう。合算サービスでは、Yさんは自身が契約している小売事業者(仮にAとしよう)に対して出先でのEV充電の料金を支払うが、その充電スタンドには別の小売事業者(同様にB)が電力を供給していることが多い。このためPoUサービスでは、両小売事業者間で何らかの精算が必要である。

 研究中の合算サービスでは、電力需要そのものを小売Bから小売Aに移し、直接的に小売Bの再エネ100%の電力が供給される。鍵となる小売事業者間の需要の「移転」は、部分供給の仕組みをヒントに検討を進めており、いずれご報告したいと考えている。


 最後に、先日の猛暑で電力需給ひっ迫注意報が出た際の体験を紹介しよう。私たちは研究施設である実験ハウスにEVによるV2Hで電力供給をしながら=図2、エアコンの効いた部屋で作業した。需給ひっ迫時でも電力系統への負担を増やさず電気を使えることは大変有益であり、社会的受容性も高いのではないかとV2Hの意義を実感した。PoUサービスを含め、移動する電力需要、EVの活用方法は大変広そうだ。

【用語解説】
 ◆RE100 CLIMATE GROUPとCDPの2つの非営利組織による国際的なイニシアティブで、参加企業は年度を定めた再エネ100%の宣言をする。類似の取り組みにEP100、EV100もある。

 ◆再エネ100%電力調達要件 環境省のEV補助金を受ける条件で、自家発電・再エネ電力メニューの購入・再エネ電力証書の購入、またはその組み合わせにより、家庭等の使用電力を再エネ比率100%にする。

 ◆時間帯別料金 歴史的には需要家の夜間の電気料金を安くしヒートポンプ給湯機などの導入に一役買った。最近、米国カリフォルニアなどでは、昼間はPVが発電するため、夕方のみ高くなるメニューが基本となりつつある。

 ◆V2H(Vehicle to Home) EVからの充放電設備で家に放電すること。

(全3回)

電気新聞2022年8月29日