前回は、自らのEVライフの一端をご紹介した。現在のEVは、ガソリン車など既存内燃機関車と同じように振る舞うよう作られており、正直言ってさほどエキサイティングな存在ではない。強いて言えば、ガソリン車に比べて低速域での加速が魅力ぐらいかと思う。このように今は魅力に乏しいEVであるが、他の技術と一緒になることにより、その様相は一変する可能性もある。今後EVはどのような発展を遂げていくのか、情報通信に関わることが多かった私なりの仮説をご紹介したい。
 

自動運転と電動化の相乗効果

 
 クルマの未来は、CASEという言葉で表現されることが多い。しかし、これに含まれるこの4つの単語の関係ははっきりしないのも実情だ。今回は、A:自動運転と、E:電動化の相乗効果について考えてみようと思う。私自身はクルマの専門家ではないし、自動運転にも様々なレベルがあって課題も多いことは承知しているが、AとEがクルマの未来や新しいエネルギーサービスのきっかけとなるのではないか、と考えている。今回はこれを情報通信の発展を振り返りながらアナロジカルに考えてみたい。

 日本の通信市場は、1985年に電電公社の民営化、新規参入受け入れという形で自由化された。当時は、電話とファックス程度しか主要な通信サービスは無く、民営化されたNTTと新規参入組が「他社より1円安いよ!」的な価格競争を繰り広げる市場であった。その後、94年に携帯電話端末の売り切り制が開始されて、いわゆるケータイを自分のモノとして所有できるようになり、翌95年にはマイクロソフト社のウィンドウズ95が発売され商用インターネットの利用が本格化した。

 この95年は日本の情報通信市場にはエポックメーキング的な年で、インターネット利用に必要なブラウザやケータイなど、その後の情報通信の基盤となる、いわゆる「ビークル」が出そろった年であった。2000年頃には、モデムを使用して有線電話をサーバーにいちいち接続することへの不満が高まり、インターネットの常時接続というサービスがADSLなどの「新技術」の導入によって始まった。

 現在、私たちはスマートフォンをインターネットにつなぎ、SNS、電話、動画視聴など多種多様なサービスを楽しんでいる。これらは、先に見たように、「市場自由化」×「ビークルの登場」×「新技術の導入」という大きな変化の相乗効果の現れといえよう。

 では、エネルギーの世界はどうだろうか。東日本大震災を契機として電力・ガスの市場は既に完全に「自由化」された。また、第1回で述べたとおりEVの市場投入が世界的に活発だ。これはモビリティーのみならずエネルギー分野にとっても文字通り「ビークル」である。前回ご紹介した私自身のEVも交通標識など多くの情報を車載カメラが取り込んでおり、関係者によるとこれは自動運転という「新技術」への布石とのことである。自動運転と電動化は別物だが、自動運転は魅力に乏しいEVの立場を一変させる鍵となるかもしれない。一部のメーカーは既に発表しているが、自動運転の進む方向は月々料金を支払うサブスクモデルのようであり、さらにこれにはグレードなど多様性が設けられそうである。言い換えれば多様な自動運転アプリをクルマにインストールする、というクルマのスマホ化が進む可能性がある。
 

充電は他のクルマと調和

 
 自動運転にアプリという概念があるならば、ビジネスチャンスをサードパーティーにも開放してほしいという要請は自然に出てくるだろう。そうなれば、絶対クルマ酔いしないアプリ、F1レーサー監修のアプリなど様々な価値観のアプリが出現する可能性がある()。そして、これらの全体的な安全走行を担保するために、航空機の管制に似た社会的な機能も必要になってくるかもしれない。


 アプリで自動運転されることにより、走行の時間的な不確実性が軽減できれば、EVの充電は他車と調和したスケジュール化が可能になる。これは、とりもなおさず充電インフラの効率的稼働への貢献が期待され、現在は採算が見通しづらい充電サービスに対しても朗報となりうると考えられる。

 以上を改めてエネルギー側の視点で眺めなおすと、今まで135年間地理的に移動しなかった電力需要にEVという地理的に移動する需要(時に供給力にもなる)が加わることとなる。当然エネルギーサービスもそれに合わせて多様化することが予想される。次回はその考えられる一端をご紹介しよう。

【用語解説】
 ◆CASE Connected、Autonomous、Service、Electrificationの略。これら4要素がクルマの将来の方向性と言われている。

 ◆ADSL Asymmetric Digital Subscriber Lineの略。有線の電話線にデジタル変調をしたデータ通信を重畳させて、インターネットの常時接続を実現した。

 ◆サブスクモデル サブスクリプション(subscription)モデルの略。サービス料金などを利用一回ごとに支払うのではなく、一定期間利用できるビジネスモデルのこと。

電気新聞2022年8月22日