三井住友信託銀が調査報告
三井住友信託銀行は、アンモニア発電の普及に向けた課題などを整理した調査報告書を発表した。アンモニア発電については、欧州などで「石炭火力の延命策」との見方が強く、主要先進国のうち日本だけが推進する状況に陥りかねないと指摘。ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー危機で石炭火力への風当たりが弱まっている、このタイミングを普及につなげるため、燃料のサプライチェーン(供給網)構築や製造コスト低減などの課題に立ち向かうべきと訴える。
アンモニアの世界生産量は2020年時点で約1億8500万トン。そのうち半分程度がアジア地域で生産されている。
アンモニアは肥料や医薬品、冷媒などに使われている。最近は脱炭素の流れを受けて、水素キャリア、船舶燃料、発電燃料といった用途が注目を集めている。現時点では約8割が肥料用で、発電用はほぼゼロに等しい。
民間投資が必要
報告書では、アンモニアの普及に向けた課題として燃料サプライチェーン構築を挙げた。特に二酸化炭素(CO2)を実質的に大気中に放出しない「グリーンアンモニア」と「ブルーアンモニア」の供給が重要と強調している。
21年に世界で生産されたグリーンアンモニアは2万トン未満。既存用途の供給を圧迫することなく、供給力を拡大する必要があると指摘した。そのためには、アンモニアの生産過程における温室効果ガス排出量の算定・認証や補助金といった制度支援で民間投資を呼び込む必要があるとした。
製造コスト課題
燃料の製造コスト低減も課題として示した。グリーンアンモニアと、CO2を排出する「グレーアンモニア」の製造コストを比較。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の資料を引用して、グリーンアンモニアの製造コストはグレーアンモニアの最大約13倍に及ぶとし、事業者側でも需要拡大やコスト低減に取り組む必要があると主張した。
ロシアのウクライナ侵攻により、石炭火力に厳しい目を向けてきた欧州などでエネルギー危機が深刻化している。安価な天然ガスに頼れなくなり石炭火力活用の動きが広がっていることを念頭に、報告書ではアンモニア発電について「世界で受け入れられやすくなっている」と強調。この好機を捉えられなければ「日本だけが注力する『ガラパゴス発電』になってしまう可能性は確実に高まる」と警鐘を鳴らす。
報告書の執筆を担当した三井住友信託銀行調査部の吉田陽一調査役は「G7(先進7カ国)の中でアンモニア発電に力を入れると表明しているのは日本のみ」と指摘。アンモニア発電について「石炭火力の依存度が高い新興国の脱炭素化に貢献する可能性がある」とし、発電技術の確立や燃料の供給力拡大に向けた施策を着実に打ち出して世界で普及を進めることが重要との見解を示した。
電気新聞2022年9月28日