情報・デジタル端末、電子機器や電気自動車などの現代の負荷・機器類は、直流を欲している。家庭や職場のコンセントからは交流100Vを、また工場や大型オフィスでは交流200Vを直流に変換して使用する。多くの場合、ACアダプター、整流装置、または専用の電力変換器を用いて直流電力を得ている。太陽光パネルから直接、直流を給電することも考えられるが、既存の電力システムにおける代表例は直流送電であり、今回は、その特長を探ってみる。
 

交流との融合近づく

 
 約100年前の電流戦争に勝利した交流。当時、高い周波数の発電機、変圧器などの製造や複数台を連系し運用する技術が困難で、低い周波数側では白熱電球に生じるフリッカ(目に不快な照明のちらつき)の閾(しきい)が約40ヘルツだったため、周波数が50/60ヘルツに落ち着いたといわれている。このような経緯もあるが、分散型電源・蓄電池、負荷機器の動向や技術の進展を踏まえると、交流の系統に直流を融合し、活用する時が近づいていることが見えてくる。

 交流は、周波数を高くすれば、発電機や変圧器などを小型軽量化できる。例えば航空機内で使用する電気の周波数は400ヘルツと高く、機器や装置の重量・寸法の抑制に貢献している。しかし、周波数が高くなると、抵抗成分以外に、インダクタンスやキャパシタンスの影響を受けやすくなり、系統安定度や充電電流(漏れ電流)の問題が出てくる。また、銅やアルミの導体でも、表皮効果と呼ばれる電流の偏りの現象が生じる。航空機は機内のみで配線距離が限定的なので問題ないが、周波数が高い電気を長い距離送るのは難しい。

 地中や水底(海洋、湖など)に敷設するケーブルで電力輸送する場合、こうした周波数の影響は顕著となり、周波数が低いほど有利になる。洋上風力発電や長距離輸送などに、直流(=周波数ゼロ)送電の導入が増えているのはこのためだ。

 このように電力システムは、電圧を変換することに加え、50/60ヘルツのみならず、直流から高周波数の交流まで、最適な状態に変えることができる効率的で優れたエネルギー利用方式といえる。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)事業(次世代洋上直流送電開発事業2015~19年度)でも、研究開発項目の一つとして、設備の小型軽量化を狙った高周波と直流送電の組み合せ利用に関する基盤技術に取り組んだ。

 電気事業は1880年台に始まり、今日まで約150年の歴史があるが、開闢(かいびゃく)当時のわずかな期間を除くと、大半は交流の時代である。事業用としての本格的な直流利用は、1954年スウェーデン本土とゴットランド島の送電、また日本では1979年に運用を開始した北本連系からだ。この頃、直流送電に関する報告書や論文も多数発行されている。直流送電の特長について整理すると(1)電力輸送効率が良く大容量を送電でき、ケーブル、鉄塔などを含めコスト低減が可能(2)非同期連系を可能とし系統の安定度を高め、短絡容量を抑えることで信頼性が上がる(3)制御性・柔軟性が増し、潮流の制御が迅速かつ容易に行える――などである。
 

今後の成長に期待

 
 電気事業の時間軸で交流と比べると、直流は約半分であり、運用実績、技術や知見も十分とはいえない。交流が成熟した大人だとすれば、直流は小学生くらいで、同じ電気でもこの2つには大きな差がある。万国共通で子どもたちの成長には希望が託されている。直流も世の中に役立つ、立派な大人のように育ってほしい。

【用語解説】
 ◆直流送電 長距離や水底区域で効率的に電気を送る方式の一つ。典型的には、既存の異なる交流系統・地点間で、交流を直流に変換して送り、受電した直流を再度交流に変換する。直流電圧は、送電容量により異なり、5万~50万Vが一般的であるが、中国では110万Vの導入事例もある。

 ◆非同期連系 交流連系は同期、すなわち周波数、位相、電圧、相回転、波形、全ての一致が原則であるが、いったん直流に変換することで、その縛りは解消され、50ヘルツ←60ヘルツのような非同期連系・電力融通も可能になる。

 ◆表皮効果 周波数に比例して、導体断面の外側・表面側に電流が偏る現象。

電気新聞2022年6月27日