排出削減技術、一定の理解

 
 25~27日にドイツ・ベルリンで開かれた先進7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合では、石炭火力の廃止時期を明確にしなかった。エネルギー安全保障の観点もあるが、日本が主張し続けてきた石炭火力向け脱炭素技術の有効性が受け入れられた格好だ。日本の政府関係者は、共同声明に水素、アンモニアの利用が取り上げられたことを踏まえ、「重要な成果。日本の方針に沿っていると言える」と強調。“日本流”の脱炭素技術の広がりに期待を示した。(湯川 努)

 今回の会合では、石炭火力の廃止時期が共同声明に盛り込まれるかが焦点になっていた。議長国のドイツは2030年に石炭火力を廃止する目標を掲げる。会合を前にした4月末、ドイツがG7各国に目標への同調を呼び掛けるとの報道が流れた。
 

説明尽くし

 
 これを受け山口壯環境相は「各国の事情を踏まえた現実的な対応が必要」と説明。「排出をいかに減らしていくか。アンモニア混焼やCCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)など、排出削減技術の利用を呼び掛けていきたい」とも話し、G7各国に理解を求める姿勢を示した。

 会合では予定通りに、日本が得意とする石炭火力向けの脱炭素技術を提案した。CCUSは共同声明で「大規模なエネルギー源から排出を削減でき、ネットゼロ経済に適切である可能性がある」と示された。

 脱炭素技術の有効性が広まったこともあり、今回の会合では石炭火力の廃止時期が明示されなかった。米国が脱石炭火力の時期を「30年代」と主張したことも廃止時期を明確化しない追い風になった。

 一方で、「35年までに電力部門の大部分を脱炭素化する」という文言が盛り込まれた。第6次エネルギー基本計画では30年度のエネルギー需給見通しで、脱炭素電源比率を約6割と見込んでいる。「大部分」の解釈は各国によって異なるが、計画の着実な実行に加え、既設火力発電所の燃料転換など一歩踏み込んだ排出削減対策も求められる。
 

価格付けも

 
 共同声明では炭素市場やカーボンプライシング(炭素の価格付け)を通じた歳入の拡大も重要と指摘している。集めた資金を気候変動対策に投じて、カーボンニュートラルの達成につなげる狙いだ。「炭素市場の採用を追求する」との文言も採用された。

 共同声明は、環境、エネルギー政策を広範囲に網羅した内容だ。会合後の会見で大岡敏孝環境副大臣は「G7に限らず、途上国にこの動きを広げる必要がある」と指摘した。G7を通して、脱炭素技術を世界に広めることが日本の重要な役割になる。
 

識者は…原子力に追い風、G20にも広げて

 
 東京大学公共政策大学院の有馬純特任教授

 日本の主張がおおむね通ったと感じている。日本はアジアを代表する立場として、石炭火力の高稼働の状況を伝え、廃止時期の明示よりも水素、アンモニアによる低炭素化、脱炭素化がまず必要だと訴えたのではないか。

 原子力に関しては、昨年の先進7カ国(G7)気候・環境相会合でも言及はあったが、「系統の柔軟性として安定供給に貢献する」などの文言が今回初めて盛り込まれた。原子力への期待の表れであり、ウクライナ危機を契機に原子力にフォローの風が吹いている。

 共同声明の内容がG7内にとどまっては意味が無い。採択内容を世界に広めるためにも議長国のドイツは、11月の主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の開催国インドネシアに粘り強く趣旨を伝えていく必要がある。

 ただ脱石炭を進めることはエネルギーコストの高まりにつながる。G20や途上国が受け入れるかどうか。難しい面もある。(談)
電気新聞2022年5月31日