第一線現場における喫緊の課題である「省人化」「技能継承」。この永遠の課題の解決・改善に向けて、昨今デジタル技術の適用促進が活性化してきている。その中でも、ここ数年で実務適用・社会実装が進んできたのが「XR技術」である。本連載では、第一線現場における省人化を含む技能継承へのXR技術の活用について各種最新事例を交えてご紹介する。初回は、そもそも「XR技術とは何か?」について理解を深めたい。
第一線現場の課題解決に資する
IT→ICT→DXのように、時代の流れとともにデジタル推進の言い方が変化してきているが、これらの違いの有無について語れる人はいるのだろうか? 同様に、XR技術という言い方が一般化してきたのはこの1~2年のことであるが、その周辺にはVR/AR/MR=用語解説参照=・デジタルツイン・メタバース・ちょっと毛色が違うがオンラインゲームといった言葉もある。これらの違いについて多くの人に聞いてみると、捉え方・答え方は千差万別であるが、結論は、大局的に見るとIT・ICT・DXの違いと変わらず「同じ物」と考えれば良い、ということになる。
本連載では、流行り言葉に惑わされず、「第一線現場の課題解決のためには?」という目線で情報共有していきたい。
XR技術、この言葉自体は「VR/AR/MR」各技術の総称であり、それぞれの技術の祖先的な考え方は、古くは1980年代、SF小説まで範囲を広げるとさらに大昔までさかのぼることになる。例えばトヨタ自動車などでは、3次元CADによる機械設計とそのデータの後工程活用としてのVR活用(バーチャルでのデザイン評価・作業性評価など)を既に90年代後半から実施してきた。だがXR技術が一般人の目に止まる、ニュースになるようになってきたのはVR元年と言われた2014年であったと筆者は実感している。
「数億円」が「20万円」で可能に
この年には、オキュラス社(後にフェイスブック社が買収、フェイスブック社もXR・メタバースに社運を懸けて21年にメタへ社名変更)から初めて安価なVRデバイス(HMD)「オキュラスDK1」が発売(5万円程度)された。先に紹介したトヨタ自動車の例の様な過去のVRシステムは、「冷蔵庫サイズのスパコン4台+小部屋の床と壁4面に裏から投影するプロジェクターを組み合わせた装置」を必要とすることもあり、導入には数億円(うちVRソフトウェアは1千万円程度)かかった。それと比べると、オキュラスDK1は、別途必要になるPCと合わせ計20万円ほどのコストで同じことができる。衝撃の時代の到来であった。
この年のオキュラスの登場を発端に、VR技術の認知開始およびスマートフォンの発達・展開に伴うAR技術の活用・認知が始まり、さらに17年のマイクロソフト社によるMRデバイス「ホロレンズ」の発売に乗る形で各技術が世間一般に知れ渡るようになった。
いずれの技術も、研究は実用面への適用からスタートするが、世間一般に認知され始まるのは、エンターテインメントなどの面白い・遊びへの適用事例が出てくるあたりからになる。その後遅れて、実用面への展開の活性化が始まる、つまり我々のような仕事の現場への活用が始まることとなる。
本連載では今後、各業界における多くの適用事例=図参照=を紹介していくが、いずれの事例も、XR技術単独での活用ではなく、AIやIoTといった他の何らかの技術と組み合わせた活用、バーチャルと現実の接点となる活用が多い。そう、実はXR技術というのは、「技術と技術を繋ぐ」「現実とバーチャルを繋ぐ」など、ある意味接着剤としての役割を果たす技術なのである。この接着剤が、第一線現場の永遠の課題である「省人化・技能継承」にどう寄与するのか? このような観点で次回以降をお読み頂きたいと思う。
【用語解説】
◆VR/AR/MR
正式呼称及び日本語はそれぞれ、バーチャル・リアリティー(仮想現実)/オーグメンテッド・リアリティー(拡張現実)/ミクスト・リアリティー(複合現実)となる。3Dなどの完全仮想空間に没入するVRに対しAR/MRは現実の一部が仮想空間となる。そのため、第一線現場活用においては、VR=教育訓練・AR/MR=実現場、との活用をされることが多い。
◆HMD
ヘッドマウントディスプレイ。XR界隈では、主に頭部に装着するウエアラブル型の表示デバイスを示すことが多い。
電気新聞2022年2月7日