2021年4月に、調整力の取引を行う需給調整市場が開設され、現在は、低速の3次調整力(2)の取引がスタートしている。低速のメニューであるため、アグリゲーターもDRを取りまとめて活用できる市場となっている。5分値アセスメントなど、調整力公募よりもリソース側への要求水準が高いことから、アグリゲーターの果たす役割が大きい。同市場を紹介するとともに、今後のアグリゲーター事業の可能性を展望する。

 DRリソースにとって、調整力公募や容量市場と異なる点は、主に次の3点である。まず1点目は前日に入札があるため、リソース側は翌日に応動対応できる日のみ参加し、落札できれば、発動待機体制を構築することが容易である点。2点目はベースラインではなく需要家が策定する基準値計画に基づく指令を受けるという点。そして3点目は落札されてもゼロ指令を受ければ、約定した?凾汲vを供出するのではなく、基準値計画通りに応動することが求められるという点である。

 リソース側としては、設備の運用状況を踏まえて市場参加できるという利点がある一方、ゼロ指令であっても受電点で基準値計画通りに応動しなければならない。DRに使う設備を動かさない状態でも基準値に収まる必要があることから、その設備のみならず受電点での電力制御ができることが市場参加に対する重要な要件であるといえる。
 

事前審査が課題に

 
 需給調整市場の取引開始前は、DRリソースが参加コストを回収できる報酬を得られる市場になるかは不透明だった。しかし取引開始以降、エリアによっては応札量が募集量に満たないブロックも発生しており、現時点においては、参加に向けてチャレンジする価値のある市場といえよう。

 一方、DRの参加に当たっての課題も見えてきている。まずは、参加のために受ける事前審査の厳しさである。実市場における30分1コマのアセスメントに対し、需給調整市場にDRで参加する場合の事前審査は、審査対象時間の全てに対して5分値単位でアセスメントを満たすことが必要である。例えば複数台の自家発電設備で応動へ対応している場合、そのうち1台の切り替えタイミング1~2分における供出量の揺れやメーターの乗率により、変動幅が実際より大きく表示されてしまい、5分値アセスメントが満たせない場合などが想定される。

 また発電所などでは発電量に対して所内負荷の割合が小さいが、DRリソースは自家発電設備や蓄電池などのDRに使う設備に対して自らの需要の割合が大きい。このため設備の制御可能範囲を超える需要側の振れがあった場合など、調整が難しい場合もある。

 このような課題解決に取り組むことがこれからのアグリゲーターの役割である。
 

K―VIPs開発

 
 関西電力では、K―VIPsというVPPサポートシステムを2019年より開発し運用している。このシステムは調整力公募の対応に必要な電力メーターの1分値の取得によるベースライン表示機能からスタート。その後、需給調整市場への対応や、需要家とのDRスケジュールの共有や精算に関する双方向のやりとりといった機能付加、リソースアグリゲーターの保有するシステムとの接続などにより、アグリゲーター・需要家側の双方のDRに関わる業務負荷軽減にも取り組んできた。


 今後はDRだけでなく自家発電設備や蓄電池などの逆潮流リソースの獲得についても力を入れ、VPPに参加できるリソースの幅や量を増やしていく。将来的にJEPXでの取引や再エネアグリゲーションの中での活用も含め、より多様な価値の提供を行うことで当社をアグリゲーターとして選んで頂けるお客さまを増やしたい。さらに扱う量を増やすことによるならし効果で安定的にVPPを運用し、収益を上げるとともに需給逼迫などの社会課題への貢献もしていきたいと考えている。

【用語解説】
 ◆需給調整市場 一般送配電事業者が電力供給区域の周波数制御・需給バランス調整を行うために必要となる調整力を3時間ブロック単位で公募による調達を行う市場。21年度から応動時間が遅い3次(2)から順次導入され、24年度からはより高速な商品を含む5商品全ての市場取引が開始される。

 ◆3次調整力(2) 需給調整市場の商品。再生可能エネルギーの予測誤差に対応する調整力として、市場取引が開始されている。発動開始時刻の45分前に発動指令を受ける。

(全2回)

電気新聞2021年12月27日