脱炭素機運高まり、電化に熱視線も

 
 新型コロナウイルスの世界的な流行などを背景とした給湯機の供給遅延が、家庭のオール電化推進に影を落としている。オール電化に必要なエコキュート(自然冷媒ヒートポンプ式給湯機)の在庫が十分に確保できず、電力営業にブレーキをかけつつある状況だ。供給がいつ正常化されるかは不透明なもよう。カーボンニュートラル実現へ舵を切り始めたタイミングで起きた事象だけに、エネルギー業界関係者からは「脱炭素の機運が盛り上がったところに水を差す動きだ」と焦りの声も漏れる。

 給湯機の不足には国も警戒感を強めている。経済産業省と国土交通省は昨年12月、日本ガス石油機器工業会と日本冷凍空調工業会に、家庭用給湯機の安定供給に向けた対応を要請した。経産省によると、ガス給湯機だけではなく、エコキュートの生産にも遅れが生じている状況だという。新型コロナの感染拡大でロックダウン(都市封鎖)の措置を取った地域があり、製品に必要なコネクターなどの部材が不足したことが主な要因とみられる。

 エコキュートの供給支障は、既に営業現場に色濃く影を落としている。営業活動に携わる大手電力社員は、エコキュートが不足している現状にあることを認め「メーカーから製品がいつ納入されるかという約束を取りつけられない状況だ」と明かす。

 昨年末の段階では、いわば「売れ筋」ではない製品をかき集めれば在庫を確保できていたが、現在はさらに在庫状況が悪化しているという。「本来ならばオール電化のキャンペーンを実施して、家庭の顧客を獲得したいところなのだが」と社員は嘆息する。

 また、全国で事業を展開するリフォーム会社の営業担当社員は「エコキュートの納入までに、約1カ月待たなくてはいけない」と現状を説明。「(顧客から)エコキュートが故障したという問い合わせを受けても、すぐに対応できない」とこぼす。

 カーボンニュートラル実現を目指す2050年までは、まだ相当な年数があるため、短期的なエコキュートの供給遅延が甚大な影響を与えるとまでは言い切れない。ただ、脱炭素を目指す動きが強まり始めた途端に家庭部門の電化推進にブレーキがかかるのは手痛い。

 ある大手電力幹部は「スタートでつまずいてしまうと、今後の電化の進捗にも悪影響を与えかねない」と強く警戒する。供給の遅延がいつ解消されるのか。関係者は不安を抱えながら状況を注視している。

電気新聞2022年2月22日