熱源転換、日本勢に商機

欧州で家庭の暖房手段を移行する動きが広がってきた。省エネルギー性の高い「ヒートポンプ式暖房・給湯機(エア・ツー・ウオーター、ATW)」に主役が移り変わろうとしている。背景にあるのは欧州連合(EU)の脱炭素政策。加盟各国が補助金などでATWの導入を後押しし、販売が急激に伸びている。日本の空調メーカーもこの商機を逃すまいと、生産能力や研究開発体制の拡充に乗り出した。
ATWは、いわば「暖房もこなすエコキュート」。温水を使ったセントラル式暖房が主流の欧州向けの機器となる。電気を用いるヒートポンプ技術によって温めた水を配管に循環させ、床暖房やラジエーターから放熱して住宅全体を暖める。温水は風呂や調理など給湯にも使う。北欧向けに加温性能を高めた機種、温暖な南欧向けに冷房を搭載した機種もある。

ATWの強みは省エネ性の高さ。ガスや灯油などの化石燃料を燃焼させる従来のボイラー式と比べ、3倍以上のエネルギー効率がある。少ないエネルギーで効率良く住宅を暖められ、二酸化炭素(CO2)排出削減に貢献できる。再生可能エネルギー由来の電力を使えば、家庭暖房の脱炭素にもつながる。

20年、年間販売の約1割に

欧州の家庭用暖房機器の年間販売に占めるATWの割合は2020年で約1割、70万台程度と推定される。価格は出力などによって異なるが、標準的なタイプでも工事費を含めて100万円程度が必要となるため、現在も販売数の大半は安価なボイラー式が占めているのが実情だ。
だが、環境政策に注力する欧州では近年、ATWの普及を後押しする動きが加速している。EUは19年、「欧州グリーンディール」を策定し、20年10月には具体的な行動計画の一つとして「リノベーション・ウェーブ戦略」を発表。改修で既存建築物のエネルギー効率向上を目指す同戦略で、家庭のエネルギー消費の80%以上を冷暖房・給湯が占めているとして「冷暖房の脱炭素」が急務と指摘した。課税などを通じて化石燃料からの切り替えを促進するよう加盟各国に奨励するとともに、EUが資金・技術の提供も進めるとした。
さらに欧州委員会は昨年12月、加盟国に達成を義務付ける「建物のエネルギー性能に関する指令」について、30年までに新築の建物全てでCO2排出をゼロにすることを目指す改正案を提案。化石燃料を用いた冷暖房を40年までに域内で廃止する方針も示した。
近年のEUの動きを踏まえ、加盟各国はATWへの支援を手厚くしている。一つは補助金の増額。ドイツやフランス、イタリアなどのEU主要国を筆頭に補助金が毎年のように引き上げられており、その額は平均すると購入額の4割程度。既設暖房からの置き換えと新設の双方でATWの導入を支援している。
ボイラー式暖房に対する環境規制も進む。ドイツは26年にオイルボイラーを禁止する予定。EU離脱・非加盟国ではあるが、英国は23年に新築の建物に対するガスボイラーの設置を禁止し、ノルウェーは既に暖房用の灯油の使用を禁止した。

2桁の市場拡大続く見方

こうした追い風を受けてATWの販売数は急激に伸びている。日本の空調メーカーの話を総合すると、近年の市場拡大は前年比2桁を超える勢いという。各社の見方は「この伸びは25年、30年以降も続く」で一致する。トップシェアを確保するダイキン工業は、30年時点の欧州暖房市場の販売数に占めるATWの比率が44%、400万台弱になるとの独自試算も示す。ウクライナ情勢の緊迫も、ガスを熱源としないATWを後押しする材料になりそうだ。

(この記事は連載[ATW・欧州暖房市場の主役交代]の初回です)

電気新聞2022年2月9日