国が2021年末に公表した洋上風力発電の公募結果を巡り、関係各者に衝撃が広がっている。三菱商事の共同事業体が他者と圧倒的な価格差で3海域とも勝ち取ったからだ。見積もりの方法や他の海域との組み合わせ、販売方法など、競合他社は抜本的な戦略見直しを迫られる可能性がある。

 3海域のうち、最も安かったのは秋田県由利本荘市沖の1キロワット時11.99円。2番目に安い応札価格とは5円以上の開きがあったとみられる。競合他社からは「風車代をゼロ円にしても勝てない」「(もし落札価格で応札すれば)年数十億円の赤字が出る」と、悲嘆の声が飛び交う。

 安さの秘訣(ひけつ)は何か。複数の関係者が指摘するのは、洋上風力の再生可能エネルギー価値だ。PPA(電力購入契約)や小売りを通じて環境価値を評価する需要家に高値で売る戦略が浮上している。三菱商事らは公募でAmazon、NTTアノードエナジー、キリンホールディングスと組んだ。NTTアノードエナジーは現段階でオフサイトPPAでの協力を否定するが、「地域創生に関してNTTグループで協力する」としている。

 海外の知見も有利に働いたとみられる。三菱商事は20年にオランダ・エネコを買収したが、両社は洋上風力の協力関係を12年から続けてきた。こうした過去の開発実績を踏まえたコスト・リスク分析ができたことは、大きな経験値になったとみられる。

 工事費や資材調達の戦略も焦点だ。三菱商事らは複数海域の獲得を前提に、調達量を増やしてコストを下げたとみる向きは多い。関係者は「1つの海域だけでの見積もりでは勝てない」と口をそろえる。三菱商事らは全ての風車に米ゼネラル・エレクトリック(GE)製を採用した。複数海域に応札した事業者の中にはメーカーやゼネコンを数社に分けたケースもあったようだ。

 経営体力を強化するため、洋上風力で業界の集約が起こる可能性もささやかれる。洋上風力発電所の建設には数千億円の投資が必要。10円台の応札は三菱商事以外にもあったため、今後の公募でも20円を大きく下回る水準での勝負が確実だ。ある関係者は「三菱商事の価格は数年後のイメージ」と話すが、安値競争は初の大型洋上風力公募となった今回、早くも始まった。

 東京大学の松村敏弘教授は「洋上風力に懐疑的な論者が考え方を変えるかもしれない期待を持てる結果」と評価する。大規模送電網の建設を後押しする世論の醸成にも期待する。一方、ある関係者は「再エネが安くて良かったという単純な風潮が広がると、火力など他電源にも影響する」と懸念する。

 別の関係者は「地域との関係や念入りな調査といった、今までの電源投資の発想を根本的に練り直す必要がある」と話す。次の公募海域は秋田県八峰町・能代市沖の1つのため、応札者が集中する。締め切りの6月に向けて各事業者は戦略の再構築を迫られている。

電気新聞2022年1月5日