内外自動車メーカーがEVシフトの取り組みを加速している

 脱炭素社会の実現に向けた機運が高まる中、自動車メーカーによる電気自動車(EV)シフトが加速している。高級車部門は米テスラの台頭もあり、EV専業やEV100%ブランドへの切り替えを表明する企業が相次ぐ。国内メーカーもEVの投資計画や長期の販売目標を設定し始めた。

 自動車の環境規制に積極的な欧州で動きが顕著。欧州委員会は7月に公表した環境対策の政策パッケージ「Fit for 55」で、2035年までにガソリン車の新車販売を禁止する方針を示した。

 独フォルクスワーゲン(VW)は7月、30年までに世界の新車販売に占めるEV比率を5割に高める目標を発表した。40年には欧米や中国などの主要市場で走行中に排ガスを出さない「ゼロエミッション車」を100%投入する。

 独ダイムラーは30年までに新車販売の50%以上をEVもしくはプラグインハイブリッド車(PHEV)とする計画。このうちメルセデス・ベンツの新車は30年までにEV100%を目指す。

 高級車では他にも、VW傘下のアウディが26年以降に投入する新車を全てEVにする。アルファロメオは27年、ボルボやジャガーも30年からEVのみの販売に切り替える。

 トヨタ自動車の佐藤恒治執行役員は高級車市場について「EVに対するお客さまの期待値が急速に高まっている」と言う。高級車は価格競争に陥りにくく、先進技術も顧客に選ばれる要素の一つになるという。

 「モデルS」を展開するテスラへの対抗も、各社がEV化を急ぐ要因といえそうだ。テスラの20年通期の販売台数は約49万9550台。21年第3四半期(7~9月)の販売台数は前年同期比73%増の24万1391台となり、四半期として過去最高を更新している。
 

大統領令追い風

 
 米国でも電動化が進みつつある。バイデン大統領は8月、米国内の新車販売の50%を30年までに電動車にすることを目指す大統領令に署名した。米ゼネラル・モーターズ(GM)は25年までに世界で30車種のEVを投入し、35年までにエンジン車の販売を取りやめる。

 GMと業務提携するホンダの三部敏宏社長は4月の就任会見で「40年にEVと燃料電池車(FCV)の販売比率を100%にする」と述べた。“エンジン屋”のホンダがハイブリッド車(HV)すら捨てる決断をしたことに業界からも驚きの声が上がった。

 一方、トヨタはEVに限らずHV、PHEV、FCVの開発・販売にも力を注ぐ「全方位戦略」をとる。そのトヨタが14日に今後のEV戦略を発表。30年までにEV関連の投資枠4兆円を設けると打ち出した。EVの世界販売目標も従来は、FCVと合算して30年に年間200万台としていたが、EV単独で同350万台に上方修正。高級車ブランド「レクサス」は35年にEV100%を目指す。

 「リーフ」を展開してきた日産自動車は11月、電動化に関する30年度までの長期ビジョンを策定。26年度までにEVを含む電動車、車載用電池の開発に2兆円を投じる。30年度までにEV15車種を含む23車種以上の電動車を市場投入し、販売車種の半数以上を電動車が占めるようにする。
 

LCAの議論も

 
 EVは走行時こそ二酸化炭素(CO2)を排出しないが電池の製造時に電力を多く消費する。欧州では自動車の環境規制を燃費からライフサイクルアセスメント(LCA)へ移す議論が進む。

 LCA規制が敷かれると、火力が電源構成の約7割を占める日本で生産したEVは販売できなくなる恐れもある。日本自動車工業会の豊田章男会長は「エネルギーのグリーン化が必要。他の産業とともにカーボンニュートラルに取り組まないと難しい」と訴える。日本の自動車が今後も競争力を維持するため、国やエネルギー業界が担う役割は大きい。

電気新聞2021年12月21日